古いアパート、戸建、収益物件を売却するとき、「現状有姿で売る」「契約不適合責任は免責にする」という条件を入れることがあります。
たしかに、築年数が古い物件では、買主も一定の劣化や不具合の可能性を前提に検討します。しかし、現状有姿や契約不適合責任免責は、売主が知っていた雨漏り・水漏れ・設備不良を黙ってよいという意味ではありません。
この記事では、瑕疵担保責任免責特約があった売買契約でも、水漏れを知っていた売主と管理者の責任が認められ、知らなかった他の売主の責任は否定された裁判例をもとに、売却前に整理したい告知事項を確認します。
参考裁判例:東京地判 令和4年3月11日(ウエストロー・ジャパン 2022WLJPCA03118017)。民法改正前の瑕疵担保責任に関する事例ですが、現在の売却実務では契約不適合責任や説明・告知の問題として注意しておきたい内容です。
現状有姿・免責でも、知っていた不具合の不告知は問題になります
参考裁判例では、宅建業者である買主が、所有者の異なるアパート3棟と駐車場等を一括購入しました。契約には、瑕疵担保責任を適用除外とする条項や、中古物件として経年劣化、設備不具合、修繕費用が生じる可能性を買主が承知する旨の特約が入っていました。
それでも、あるアパートで水漏れが問題になり、裁判所は、水漏れを認識していた売主と、契約交渉の窓口にもなっていた建物管理者の責任を認めました。
実務上のポイントは、「古い建物だから不具合があるかもしれない」という一般的な説明と、「過去にこの部屋で水漏れが起きていた」という具体的な情報は別だという点です。
契約不適合責任免責の条項を入れる場合でも、売主側が具体的な不具合を知っていたなら、買主の判断に影響する情報として告知すべき場面があります。
原因が完全に分かっていなくても、発生した事実は整理する
水漏れや雨漏りでは、原因がはっきりしないまま時間が経っていることがあります。配管なのか、上階の使用方法なのか、屋根や外壁なのか、専門業者でもすぐには分からないケースがあります。
参考裁判例でも、売主側は水漏れの真の原因を完全に把握していたわけではありません。しかし、過去に水漏れが発生していたこと自体は認識していたと見られました。
売却前の告知では、「原因を断定できるか」だけにこだわらず、次のように分けて記録しておくことが大切です。
- いつ、どの部屋・どの箇所で症状が出たか
- 入居者、管理会社、修理業者からどのような報告があったか
- 応急処置、調査、修理をどこまで行ったか
- 原因が不明なまま残っている症状があるか
- その後、再発の有無を確認できているか
「よく分からないから書かない」ではなく、「分かっていること」「分からないこと」「未確認のこと」を分けて伝える方が、売主自身を守る資料にもなります。
管理会社・管理者が把握している情報も確認する
賃貸中のアパートや収益物件では、所有者本人よりも、管理会社や管理担当者の方が現場の不具合を詳しく把握していることがあります。
入居者からのクレーム、修繕依頼、工事見積、応急処置の履歴、設備故障の報告などは、売却前に管理会社へ確認しておきたい情報です。売主本人が細かい経緯を覚えていなくても、管理会社のメール、修繕台帳、請求書、写真に残っていることがあります。
参考裁判例では、建物管理を任されていた者が契約交渉の窓口にもなっており、水漏れについて認識しながら告げなかった点が問題になりました。売主側の関係者が把握している情報を、売却前にどこまで整理したかは重要です。
買主が宅建業者でも、不告知が問題になることがあります
買主が宅建業者であれば、一般の個人買主より調査能力が高いと考えられる場面があります。築古物件を購入する宅建業者なら、一定の劣化や設備不良の可能性も想定しているでしょう。
しかし、だからといって、売主が知っていた具体的な水漏れ等を告げなくてよいとは限りません。参考裁判例でも、買主は宅建業者でしたが、水漏れは契約するかどうかの判断に影響する事実として扱われました。
現地確認で買主が気づけたか、契約書でどこまで免責されているか、売主側が何を知っていたか、どの情報を提供したかが個別に見られます。
一方で、知らなかった売主まで当然に責任を負うわけではありません
この裁判例では、同じ一括売買の売主であっても、水漏れを認識していなかった他の売主については責任が否定されています。
この点も実務上重要です。売却後に不具合が見つかったからといって、売主が必ず責任を負うという話ではありません。契約条件、不具合の内容、売主の認識、説明内容、買主の調査状況などを見て判断されます。
だからこそ、売主側では「何を知っていたか」「誰からどの報告を受けたか」「何を告知書に書いたか」を残しておくことが大切です。告知書は買主のためだけでなく、売主自身を守る資料でもあります。
売却前に確認したい告知事項チェックリスト
現状有姿・契約不適合責任免責で売却する場合でも、次の事項は売却前に棚卸ししておきたい項目です。
建物の不具合
- 過去の雨漏り
- 水漏れ
- 給排水管の不具合
- シロアリ被害
設備・修理履歴
- 設備故障
- 応急処置だけで終わっている修理
- 原因不明のまま残っている症状
- 再発確認ができていない不具合
管理・入居者対応
- 入居者からの過去クレーム
- 管理会社が把握している修繕履歴
- 工事見積や請求書
- 写真・メール・報告書
土地・近隣関係
- 近隣トラブル
- 境界の問題
- 越境の問題
- 私道・通行掘削承諾の問題
すべてを完璧に調査してからでなければ売れない、という意味ではありません。分かっていること、不明なこと、確認中のことを分け、買主と契約条件にどう反映するかを整理することが大切です。
告知書は、売主を守るためにも使う
物件状況報告書や告知書は、買主へ情報を渡すための書類です。同時に、売主が売却時点で何を説明したかを残す資料でもあります。
口頭で「古いのでいろいろあります」と伝えるだけでは、後から内容を確認しにくくなります。過去の雨漏り、水漏れ、設備故障、修繕履歴、入居者クレームなどは、分かる範囲で具体的に書面化しておく方が安全です。
説明不足トラブル全般については、不動産売却前に確認したい説明不足トラブルの予防ポイントでも整理しています。道路・私道・隣地承諾の確認は、2項道路・セットバック・隣地承諾の注意点も参考になります。
まとめ:免責条項の前に、知っている事情を整理する
現状有姿や契約不適合責任免責は、古い物件の売却でよく使われる条件です。ただし、それは売主が知っていた具体的な不具合を黙ってよいという意味ではありません。
雨漏り、水漏れ、給排水管の不具合、設備故障、入居者クレーム、管理会社の修繕履歴などは、売却前に整理しておくべき重要な情報です。原因が完全に分からない場合でも、過去に症状や報告があったなら、その事実を告知書や資料で整理することがトラブル予防につながります。
横浜市内で築古アパート、戸建、収益物件、相続不動産の売却を検討している場合は、価格査定と同時に、告知事項の棚卸しを進めておくことをおすすめします。
