「あなたの土地を売却できます」「買い手がいます」「高く処分できます」。こうした電話を受けると、長年持て余していた土地や、相続したまま使っていない土地を手放せるかもしれない、と期待してしまうことがあります。
しかし、売却の話だと思って書類に署名し、費用を払ったところ、実際には別の土地を買う契約になっていたという裁判例があります。これは、いわゆる原野商法の二次被害として注意したいケースです。
結論からいうと、「売るための手続き費用」と説明されても、契約書の中身が売買契約・業務委託契約・別の土地購入になっていないかを必ず確認してください。
宅地建物取引業者だから必ず安心、という判断も危険です。
この記事では、RETIO No.132で紹介された裁判例をもとに、土地所有者、相続土地の所有者、遠方不動産の所有者が、不動産売却時の悪質営業を避けるための実務上の確認点を整理します。
参考裁判例:東京地判 令和4年2月28日(ウエストロー・ジャパン 2022WLJPCA02288010)。RETIO No.132掲載事例をもとに、一般の売主向けに内容を要約しています。個別案件の法律判断を示すものではありません。
「土地を売れます」という営業電話に注意
使っていない土地、遠方にある土地、親から相続した土地は、所有者にとって心理的な負担になりやすい不動産です。固定資産税、草木の管理、近隣対応、将来の処分に悩んでいると、「売却できます」という言葉は魅力的に聞こえます。
特に注意したいのは、売却の話に見せかけて、先に測量費、調査費、広告費、書類作成費、手続き費用などを求める営業です。もちろん、実際の不動産取引で調査や測量が必要になることはあります。しかし、契約内容や費用の根拠が不明なまま支払うのは避けるべきです。
- 買主候補の名前や条件が具体的に示されない
- 「急がないと売れない」と署名や支払いを急がせる
- 売却の話なのに、別の土地や会員権、調査契約の書類が出てくる
- 費用の名目が曖昧で、後から追加費用を求められる
- 家族や専門家へ相談する時間を与えない
実際にあった原野商法二次被害の裁判例
裁判例では、高齢の土地所有者が、過去に原野商法で取得し処分に困っていた土地について、宅建業者の営業担当者から「1,000万円程度になる」といった電話を受けました。売却するためには測量等の費用として100万円が必要だという説明もありました。
その後、営業担当者らが自宅を訪問し、所有土地を売却するための手続書類であると説明しました。所有者はその説明を信じて契約書に署名押印し、現金100万円を支払いました。
ところが、実際の契約内容は、所有者がその宅建業者から別の原野を購入する売買契約でした。さらに、追加費用として70万円、調査が必要として50万円を支払う流れになり、別の業務委託契約も締結されていました。
最終的に、所有者が家族へ相談したことで、各契約が自分の土地を第三者へ売却するための契約ではないことが判明しました。
売る契約だと思ったら、買う契約だった
この事例の怖さは、所有者が「自分の土地を売るための手続き」と信じていた点にあります。本人の目的は、処分に困っている土地を売ることでした。新たに別の原野を購入する必要はありませんでした。
裁判所は、営業担当者が、真実は別の原野を売却する契約や所在図等の作成業務を委託する契約であるにもかかわらず、所有者の土地を売却するために必要な契約書類や費用であると虚偽の説明をしたと見ています。
そのうえで、所有者が高齢であり、土地売買契約に関する知識が十分ではなかったこと、処分に困っていた土地はあっても新たな原野を買う必要はなかったことなどから、違法な勧誘と判断されました。
実務上の注意点は、契約書のタイトルだけで判断しないことです。「売却手続き」「調査」「書類作成」と説明されても、契約の当事者、売主・買主の立場、対象不動産、支払う金額、解除条件を確認する必要があります。
売主が契約前に確認すべきポイント
土地売却の営業を受けたときは、相手の説明を聞くだけでなく、書面で次の点を確認します。少しでも分からない場合は、その場で署名押印や支払いをしないことが重要です。
契約の目的
- 自分の土地を売る契約か
- 別の土地を買う契約ではないか
- 媒介契約、売買契約、業務委託契約のどれか
- 売却先や買主候補は具体的か
対象不動産
- 地番、所在地、面積が自分の土地と一致するか
- 知らない土地が契約対象になっていないか
- 所在図や資料だけで判断していないか
- 登記事項証明書で確認したか
費用と支払い
- 何の費用か明細があるか
- 支払先は誰か
- 現金払いを急がされていないか
- 追加費用の可能性が説明されているか
相手業者
- 会社名、所在地、免許番号を確認したか
- 担当者の名刺と説明書面があるか
- 宅建業者だからと安易に信用していないか
- 家族や第三者へ相談する時間があるか
売却前の説明事項や記録の残し方は、不動産売却前に確認したい説明不足トラブルの予防ポイントでも整理しています。
高齢の親が土地を持っている場合の注意点
原野商法二次被害では、本人が長年処分に困っていた土地や、家族が存在を詳しく把握していない土地がきっかけになることがあります。高齢の親が遠方の土地、山林、原野、別荘地、使っていない宅地を持っている場合は、家族内で最低限の情報を共有しておくことが大切です。
- 固定資産税通知書や登記資料を家族で確認しておく
- 知らない業者から土地売却の電話が来たら、すぐ契約しないルールにする
- 訪問を受けた場合は、契約書と名刺を預かり、家族や専門家へ相談する
- 現金をその場で支払わない
- 「売却のため」と言われても、別の土地購入や業務委託契約になっていないか確認する
相続前後の不動産では、所有者本人だけで判断するより、家族で資料を整理しておく方がトラブルを避けやすくなります。相続した実家や土地の初動確認は、相続した実家、まず何をすればいい?も参考になります。
不審な営業を受けたときの相談先
不審な営業を受けた場合は、契約書へ署名押印する前、支払いをする前に相談してください。すでに契約してしまった場合でも、資料を保管し、早めに相談することが重要です。
消費生活センター
電話勧誘や訪問販売、契約解除の相談先として利用できます。事例の中でも、消費生活センターへの相談が契約解除交渉のきっかけになっています。
家族・信頼できる知人
営業担当者の前で判断せず、契約書や名刺を持ち帰って第三者に見てもらいます。高齢の親の場合は、家族が同席できる体制を作ることも有効です。
弁護士・司法書士
契約解除、登記の抹消、損害賠償、返金交渉などが必要な場合は、法律専門家への相談が必要になります。
不動産会社・専門家
売却可能性、土地の市場性、道路や権利関係を確認したい場合は、相手業者とは別の不動産会社や専門家に確認します。
横浜の不動産売却でも同じ心理に注意
原野商法という言葉から、山林や遠方の土地だけの話と思うかもしれません。しかし、横浜市内の不動産売却でも、「早く処分したい」「遠方で管理できない」「相続したが資料が分からない」「古い土地で売れるか不安」という心理につけ込まれる可能性はあります。
坂地、私道、再建築不可の可能性がある土地、古い借地・貸地、相続人が詳しく知らない土地では、売主側が不安を抱えやすくなります。その不安に対して、根拠が曖昧な高値売却や即時買取を強調される場合は、いったん立ち止まるべきです。
横浜市内で土地や空き家を売却する場合は、まず登記、固定資産税資料、道路・接道、管理状況、相続関係を整理し、売れる理由と売りにくい理由を分けて確認します。査定額だけでなく、契約内容と費用の根拠まで確認することが、悪質営業から身を守る基本です。
