不動産売買契約を結んだあと、買主が残代金を支払わない。売主としては、契約解除や違約金請求を考えたくなる場面です。
ただし、実務では「買主が払わないから、売主はすぐ解除できる」と単純にはいえません。売主側も、所有権移転登記や引渡しに必要な準備を整えたうえで、契約書に沿って催告や通知を進める必要があります。
この記事では、裁判例で問題になった事案をもとに、横浜市内で空き家・相続不動産の売却を検討している売主向けに、契約解除前に確認したいポイントを整理します。
買主が払わない場合でも、売主側の準備が重要です
残代金の支払いは買主の重要な義務です。一方で、不動産売買では、売主にも所有権移転登記に必要な書類の準備や、物件を引き渡す準備があります。
売主側の準備ができていないまま解除を進めると、買主から「売主も引渡しの準備をしていなかった」と反論されることがあります。特に決済日、登記書類、鍵、残置物、抵当権抹消、相続登記などが絡む場合は、売主側の準備状況を記録に残しておくことが大切です。
実務上のポイントは、買主の不払いだけを見るのではなく、売主側が「引き渡せる状態を整えていたか」も一緒に確認することです。
判例で問題になったケース
参考になる裁判例では、土地建物の売買契約後、買主が残代金を支払えなかったことが問題になりました。概要は次のような内容です。
- 売買代金は9,900万円、手付金は100万円
- 残代金の支払期限が定められていた
- 契約書には、催告後に履行がない場合の解除条項と、売買代金10%の違約金条項があった
- 買主は、コロナ禍の影響で事業資金の入金が遅れ、残代金を準備できなかったと主張した
- 売主は、所有権移転に必要な準備を整え、決済場所で待機した
参考裁判例:東京地判 令和4年6月16日(ウエストロー・ジャパン 2022WLJPCA06168014)。本記事では、一般の売主向けに内容を要約して紹介しています。
この事案では、買主の資金調達トラブルだけでなく、売主側が決済・登記の準備をしていたかも判断材料になりました。
裁判所は売主の解除を有効と判断
裁判所は、売主による契約解除を有効と判断しました。大きな理由は、売主側が所有権移転登記に必要な書類を準備し、買主に通知したうえで、決済場所に待機していたことです。
そのうえで、買主は期限までに残代金を支払いませんでした。買主が主張した「コロナ禍の影響で購入資金を調達できなかった」という事情についても、不動産売買の当事者間では、原則として買主側のリスクと見られました。
もっとも、これは一つの裁判例です。どの事案でも同じ結論になるわけではなく、契約書の内容、通知の方法、売主側の準備、買主側の事情によって判断は変わります。
売主側が確認すべき「反対債務」とは
判例で出てくる「反対債務」とは、相手の義務に対応して、自分も果たすべき義務のことです。不動産売買では、買主の義務は主に残代金の支払いです。これに対して、売主の義務は所有権移転登記への協力や物件の引渡しです。
売主が買主の支払い遅れを理由に解除したい場合でも、売主側が所有権移転・引渡しの準備をしていなければ、買主から「同時に行うべき売主の準備ができていない」と反論される可能性があります。
これに関係する考え方が「同時履行の抗弁」です。簡単にいえば、「相手も同時にやるべきことをしていないなら、こちらも履行を拒める」という考え方です。そのため、売主としては、解除や違約金請求を考える前に、自分の側の準備を整えたことを説明できる状態にしておく必要があります。
売主が契約解除前に確認したいポイント
買主が残代金を支払わない場合、感情的に解除通知を出す前に、次の点を確認します。
1. 登記関係書類を準備しているか
権利証・登記識別情報、印鑑証明書、本人確認書類、固定資産評価証明書、抵当権抹消書類など、決済に必要な書類を確認します。
2. 引渡しや決済場所の調整ができているか
決済日時、場所、司法書士、仲介会社、鍵の引渡し、残置物の扱いを整理します。
3. 相当期間を定めて催告しているか
契約書の解除条項に沿って、いつまでに何を履行してほしいのかを明確に通知します。
4. 通知や連絡の証拠を残しているか
内容証明郵便、メール、書面、仲介会社とのやり取りなど、後から確認できる形で記録します。
5. 違約金条項を確認しているか
違約金の金額、請求できる条件、責めに帰すことができない事由の扱いを契約書で確認します。
違約金は、契約書の条項や個別事情によって扱いが変わります。「必ず請求できる」と断定せず、必要に応じて弁護士などの専門家へ確認してください。
横浜市内の空き家・相続不動産を売却する場合の注意点
空き家や相続不動産の売却では、売主側の準備に時間がかかることがあります。買主側の資金調達トラブルに備える意味でも、売主側の履行準備を早めに整えておくことが重要です。
売主が遠方にいる場合
印鑑証明書、本人確認、鍵の所在、現地立会い、残置物確認に時間がかかります。代理対応や郵送日数も見込んでおきます。
相続人が複数いる場合
誰が売主になるのか、誰が署名押印するのか、遺産分割協議や相続登記が終わっているかを確認します。
登記や必要書類に時間がかかる場合
抵当権抹消、住所変更登記、相続登記、未登記建物、境界資料など、決済前に整理が必要な項目を洗い出します。
買主側のトラブルに備える場合
売主側が準備を整えていたことを説明できるよう、書類、通知、決済調整の履歴を残します。
まとめ
買主が残代金を払わない場合でも、売主は手順を踏む必要があります。ポイントは、売主側の所有権移転・引渡し準備、相当期間を定めた催告、通知や連絡の証拠化、契約書の違約金条項の確認です。
特に横浜市内の空き家・相続不動産では、相続登記、共有者の同意、残置物、鍵、遠方対応など、売主側の準備が遅れやすい事情があります。売買契約後のトラブルが不安な場合は、解除を急ぐ前に、まず状況と記録を整理しましょう。
