相続した中古住宅や、親が使っていた別荘・保養所・セカンドハウスを売却するとき、売主自身が建物の状態を詳しく把握していないことがあります。
ところが売却後、買主から「床が沈んでいる」「建物が傾いている」「雨漏りがある」と指摘されると、契約不適合責任や告知事項をめぐってトラブルになる可能性があります。
この記事では、RETIO No.131で紹介された裁判例を参考に、相続した中古住宅・空き家・別荘を売る前に確認したい建物状態、現状有姿、契約不適合責任、建物状況調査のポイントを整理します。
この記事は、裁判例をもとに売却前の確認点を一般的に整理するものです。個別の法律判断や契約条項の有効性を断定するものではありません。
相続した中古住宅や別荘は、建物状態を把握しにくい
相続した実家や別荘では、所有者本人が長く住んでいなかったり、年に数回しか利用していなかったりします。そのため、雨漏り、床の沈み、建具の不具合、基礎や外壁のひび割れなどに気づきにくいことがあります。
特に別荘や保養所として使われていた建物は、普段の生活で毎日使う住宅とは違い、不具合が表面化しても記録が残っていないことがあります。相続人が「問題ないはず」と思っていても、買主の内覧、リフォーム業者の確認、引渡し後の利用で初めて指摘されることがあります。
相続した実家の名義・資料整理の初動については、相続した実家、まず何をすればいい?横浜で最初に確認する順番でも整理しています。
売った後に問題になりやすい不具合
中古住宅の売却後に問題になりやすいのは、単なる古さではなく、買主が「事前に聞いていなかった」と感じる不具合です。
建物の傾き
- 床が一方向へ傾いている
- 壁や柱に傾斜がある
- 建具が自然に開閉する
- ビー玉や物が転がる
床の沈み
- 歩くと床が沈む
- 床鳴りが強い
- 一部だけ柔らかい
- 下地や木部の腐食が疑われる
雨漏り・水回り
- 天井や壁に染みがある
- 過去に雨漏り修理をした
- 給排水管の漏水履歴がある
- 湿気やカビが目立つ
構造・劣化
- 基礎や外壁のひび割れ
- シロアリ被害
- 木部の腐食
- 確認申請図面と現況の違い
こうした不具合は、現状有姿で売る場合でも、売主が知っている事情や手元資料がある場合には説明対象になる可能性があります。現状有姿や免責の基本は、現状有姿・契約不適合責任免責で売る前に確認したい、売主の告知事項も参考にしてください。
裁判例では、建物の傾きや床の沈みが問題になった
参考裁判例では、避暑地にある土地建物の売買後、買主が建物の傾斜や床の沈みなどを理由に、売主へ修補や損害賠償を求めました。
建物は、売主側の代表者家族の別荘や従業員保養所として、年間で数日程度利用されていたものでした。売買契約後、買主は床や壁に一定の傾斜があること、床の沈みなどを主張しました。
裁判所は、買主が主張した傾斜や床の沈みが瑕疵に当たるかを詳しく判断する前に、契約書で売主の責任範囲が限定されていたことを重視しました。
参考裁判例:東京地判 令和4年2月24日(ウエストロー・ジャパン 2022WLJPCA02248009)。RETIO No.131掲載事例をもとに、一般の売主向けに内容を要約しています。
契約書で売主の責任範囲が限定されていた
この事案の契約書では、売主が責任を負う建物の隠れた瑕疵が、雨漏り、シロアリの害、構造上主要な部位の木部の腐食、給排水管の故障に限定されていました。
さらに、請求できる期間や責任内容も限定されていました。裁判所は、中古建物ではさまざまな不具合が想定されるため、当事者が責任範囲を明確に限定すること自体は合理的な意思に沿うと見ました。
その結果、買主が主張した建物の傾きや床の沈みは、契約書で定めた責任対象に該当しないとして、買主の請求は認められませんでした。
実務上のポイントは、契約書に「現状有姿」「契約不適合責任免責」と書くだけでなく、何について、いつまで、どの範囲で責任を負うのかを具体的に整理することです。
ただし、契約書で免責や責任限定を入れれば常に大丈夫、という意味ではありません。契約文言、売主の認識、説明状況、買主との情報格差によって判断は変わります。
ただし、知っていた不具合を隠すのは危険
責任限定条項がある場合でも、売主が知っていた重要な不具合を買主に告げなかった場合は、別の問題になります。
参考裁判例でも、売主が傾斜や床の沈みの原因を知りながら告げなかったかが検討されています。結論としては、売主が買主の知り得ない不具合原因を認識していたとは認めにくいとして、買主の請求は制限されました。
しかし、これは「売主は何も言わなくてよい」という話ではありません。売主が雨漏り修理の履歴、床の沈みを指摘された履歴、シロアリ処理、リフォーム会社からの指摘、近隣や管理者からの連絡を知っている場合は、仲介会社や買主へ共有しておくべきです。
- 過去に雨漏りや漏水の修理をした
- 床の沈みや傾きを家族・管理者から聞いていた
- リフォーム業者や建築士から劣化を指摘された
- シロアリ、防蟻、木部腐食の資料がある
- 確認申請図面や増改築履歴と現況に違いがある
- 買主の利用目的に影響しそうな事情を知っている
説明不足トラブル全般については、不動産売却前に確認したい説明不足トラブルの予防ポイントでも確認できます。
相続人・別荘所有者が売却前に確認したいこと
建物状態を完璧に調べ切ることは難しくても、売却前に分かる範囲を整理しておくことで、契約条件や説明内容を決めやすくなります。
1. 建物を実際に確認する
床の傾き、沈み、雨染み、カビ、建具の開閉、外壁や基礎のひび割れを写真で残します。
2. 修繕履歴を集める
雨漏り修理、シロアリ処理、水回り工事、リフォーム、増改築、点検報告書を探します。
3. 告知事項を整理する
売主が知っている不具合、過去に指摘されたこと、買主へ伝えるべき資料を仲介会社に共有します。
4. 契約条件を確認する
契約不適合責任の有無、責任期間、責任範囲、現状有姿の意味、設備表・物件状況報告書の内容を確認します。
5. 建物状況調査を検討する
買主の不安が強い場合や建物状態に不安がある場合は、インスペクションの要否を検討します。
老朽化した空き家を放置した場合の管理リスクは、老朽化した空き家を放置するリスクもあわせて確認してください。
横浜在住で地方の不動産を相続した場合の注意点
横浜・神奈川に住んでいて、地方や郊外の実家・別荘を相続した場合、現地確認の回数が限られます。遠方だからこそ、売却前に確認する項目を先にリスト化しておくことが重要です。
- 現地の鍵を誰が持っているか
- 近隣、管理会社、別荘地管理組合から連絡が来ていないか
- 冬季の凍結、湿気、積雪、台風被害など地域特有の劣化要因がないか
- 現地不動産会社に建物の劣化をどこまで見てもらうか
- 相続人の誰が物件状況報告書を作成するか
- 現状有姿で売る場合の価格と契約条件をどう説明するか
遠方で現地確認が難しい場合の基本的な整理は、遠方に住んでいて横浜の空き家を管理できないときの確認点でも考え方を紹介しています。地方物件でも、確認順序は応用できます。
建物を残して売るか、解体して売るかも検討する
建物の傾きや床の沈みが大きい場合、建物付きで売るか、解体して土地として売るかの比較も必要になります。
建物を残して売る場合は、買主がリフォームや利用を前提にするため、建物状態と契約条件の説明が重要です。一方、解体して売る場合は、解体費、固定資産税、再建築可否、接道、地中埋設物、隣地との境界などを確認する必要があります。
特に古い住宅では、「建物が古いから解体すればよい」と単純には決められません。再建築できるか、道路条件に問題がないか、解体後にかえって売りにくくならないかを確認します。再建築可否や接道の基本は、再建築不可物件で知らずに損するポイントも参考になります。
まとめ:売る前に、建物と契約条件を整理する
相続した中古住宅や別荘を売却するときは、価格査定だけでなく、建物状態、告知事項、契約不適合責任の範囲を先に整理することが大切です。
参考裁判例では、契約書で売主の責任範囲が具体的に限定され、売主が不具合原因を知りながら告げなかったとも認められなかったため、買主の請求は認められませんでした。
一方で、売主が知っている不具合を隠してよいわけではありません。雨漏り、床の沈み、傾き、シロアリ、修繕履歴など、知っていることや手元にある資料は、早めに仲介会社へ共有し、買主への説明方法を整理しておくべきです。
現状有姿や免責は、売主を守るための魔法の言葉ではなく、建物状態と説明内容を整理したうえで使う契約条件です。売る前に、建物と契約条件を分けて確認しましょう。
