共有私道の電柱は移設できる?反対する共有者と改正民法の判断基準を判例で解説

共有私道の電柱移設は、持分の過半数だけでは判断できません。2018年の判例と2023年施行の改正民法を区別し、共有者の同意と設備所有者への相談のポイントを整理します。

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自宅の前にある電柱が邪魔で、車の出し入れがしにくい。「少しだけ移せないだろうか」と考えることもあるでしょう。

その電柱が共有私道に設置されていたら、誰の同意が必要でしょうか。自分も持分を持ち、ほかの共有者と合わせて持分価格の過半数になっても、自由に移設できるとは限りません。

東京地裁平成30年(2018年)1月31日判決では、電柱移設への協力・同意を求めた土地所有者の請求が棄却されました。ただし、その後2023年4月1日に共有物の変更・管理に関する改正民法が施行されています。本記事では、判例と現行法を区別して解説します。

1. 自宅前の電柱が邪魔。移設を求めた土地所有者

車の出し入れに支障があった電柱

X1・X2は2014年6月、土地とこれに接する私道の共有持分を取得しました。私道上には以前から電柱Aがあり、普通自動車でも車種によっては出入りに手間がかかりました。Xらは購入時に電柱の存在を知っていましたが、共有者が移設に同意してくれると考えていました。

共有私道28番11と各土地、現在の電柱位置A、Aの移設候補B・C、既存東電柱DとDの移設候補Eを示す概略図
図1:電柱と共有私道の位置関係(判例資料に基づく簡略図。縮尺・方位・境界の正確な再現を目的とするものではありません)。B・CはAの移設候補、Eは別の既存東電柱Dの移設候補です。提案3ではAを撤去し、Dを約1.5〜2m離れたEへ移設して3軒へ直接引き込みます。

3つの移設案が検討された

提案1(AからBへの移設)には、Y1が景観・資産価値への影響を懸念して反対。提案2(AからCへの移設)には、Y2所有建物の居住者が反対しました。さらに既存電柱Aを撤去し、東電電柱Dを約1.5〜2m離れた位置Eへ移して3軒の建物へ直接引き込む案(提案3)も示されましたが、Yらは引込線の荷重や越境などを懸念して同意しませんでした。

2. 私道持分の過半数があっても移設できなかった理由

反対していた共有者の持分は約33%

共有者持分割合
Y1・Y233.58%
Xらを含むYら以外の共有者66.42%

X1はYら以外の共有者から移設先を指定する権限の委任も受けていました。Xらは移設が共有物の「管理」に当たり、持分価格の過半数で決められると主張しました。

裁判所は「管理」ではなく「変更」と判断

裁判所は、電柱の位置変更が私道の物理的状態を変更するため、当時の民法251条にいう「共有物の変更」に当たると判断しました。当時は原則として共有者全員の同意が必要であり、持分価格の過半数だけでは決定できませんでした。

2018年の本件判決当時、持分の過半数があっても電柱移設が共有物の変更と判断された理由を説明する漫画
図2:過半数でも移設できなかった理由。判決当時の法律を前提とした説明で、会話は説明用の再構成です。画像内の条文説明は要約です。

ただし、これは改正前民法に基づく判断です。

3. 反対する共有者に同意する義務はあるのか

Xらは、Yらに信義則上の協力・同意義務があるとも主張しました。裁判所は、移設への不同意が信義則上許されない場合があり得る余地を否定しませんでしたが、今回のYらに同意義務は認めませんでした。

その理由には、Xらの支障が車種によって出入りに手間がかかる程度だったこと、電柱が以前から存在していたこと、移設距離が1.5m以上に及ぶ案だったこと、Yらが建物への影響や協議経緯に不安・不信を抱いていたことがあります。結果としてXらの請求はすべて棄却されました。

反対者が常に絶対的な拒否権を持つという判決ではなく、当事者の不利益や協議経緯などを踏まえた個別判断です。

4. 2023年施行の改正民法で共有物のルールはどう変わった?

令和3年の改正による共有物の変更・管理のルールは、2023年4月1日に施行されました。共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないもの(一般に「軽微変更」)は、全員同意を要する変更から除かれています。

行為意思決定の原則
保存行為各共有者が単独で可能
管理行為持分価格の過半数
軽微変更持分価格の過半数
形状又は効用の著しい変更原則、共有者全員の同意
2018年判決当時と2023年4月施行後の共有物の変更・管理のルールを比較した図
図3:改正前後の共有物ルール。電柱移設の区分は個別判断です。

民法252条3項では、同条1項・2項による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾が必要です。単に反対していることだけで適用されるのではなく、共有者間の決定に基づく使用関係と、特別の影響の有無を確認する必要があります。

ただし、電柱の取替え・新設・移設は同じ行為ではありません。 法務省「所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)」に設備の設置・取替え事例があっても、既存電柱の移設が一律に軽微変更となるわけではありません。

参考:法務省|所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)

5. 現在なら同じ電柱移設が認められる?

現行法では、工事が共有私道の形状・効用に著しい変更を伴うか、共有者の使用関係にどう影響するかなどを検討する必要があります。

移設案検討事項の例
Bへの移設隣接建物・私道利用への影響
Cへの移設Y2側への影響、位置変更の範囲
A撤去・DからEへの移設引込経路、荷重、越境、工事規模

これは検討事項の例であり、各案の法的評価を確定したものではありません。本記事は、この2018年判決に現行法を適用した場合の結論を示すものではありません。

また現行民法252条3項は、共有者間の決定に基づき共有物を使用する共有者に、管理に関する決定が特別の影響を及ぼす場合の承諾を規定しています。適用には使用関係などの要件確認が必要であり、単なる反対に一律の拒否権を与えるものではありません。

私道内の配管・掘削の確認については、相続した土地の水道管が他人の私道を通っていた場合の確認ポイントも参考になります。

6. 電柱を移設したい場合の申請手続きと費用

まず電柱の名称プレート・番号などから設備所有者を確認します。電力会社と通信会社では申請先が異なります。

設備所有者に技術的な可否、候補位置、費用・期間を相談し、並行して私道の権利関係と必要な同意・承諾を整理します。移設費用が発生する場合もあり、申請だけで工事実施が確定するわけではありません。

設備所有者による工事判断と、共有者間の法的意思決定は別の問題です。

7. 私道付き不動産を購入する前に確認したいこと

Xらは土地取得時点で電柱の存在を知っていました。購入後の移設を前提にするより、現況で予定する利用ができるかを確認することが重要です。

  • 想定する車両で出入りできるか
  • 電柱・支線・側溝が支障にならないか
  • 私道の所有者・共有持分はどうなっているか
  • 設備設置・利用に関する承諾書や覚書があるか
  • 移設の技術的可否、費用、期間の見通しはあるか

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通行協定や共用通路の利用制限がある場合は、相続した実家の通行協定と共用通路への駐車が問題になった判例もあわせて確認してください。

8. まとめ|共有私道の電柱移設は持分だけでは判断できない

2018年判決では、電柱移設は当時の共有物の変更に当たり、共有者全員の同意が必要と判断され、反対共有者の信義則上の同意義務も認められませんでした。

一方、2023年施行の改正民法では、軽微変更を持分価格の過半数で決定できる場合があります。現在の電柱移設は、工事内容、共有私道への影響、共有者の使用関係、設備所有者の技術的判断などを踏まえて個別に検討する必要があります。

横浜市内の私道付き不動産の売却・購入に関するご相談

私道持分、接道状況、通行・掘削承諾、近隣との取り決めなどを含めた売却・活用のご相談は、横浜不動産総合窓口をご覧ください。電柱移設の技術的可否は設備所有者へ、個別の法的判断は必要に応じて法律専門家へ確認してください。


出典・参考資料

※本記事は公表資料に基づく一般的な情報提供です。個別の同意要件・工事可否・費用負担は事情によって異なります。