親から実家やアパートを相続した。建物には昔から人が住み、水道も下水道も普通に使えている。ところが売却や建替えのために調べると、前面道路が私道で、自宅につながる水道管が第三者所有の私道の下を通っていた、ということがあります。
ここで気になるのが、私道の所有者から掘削を断られたら、水道管の更新や建替えができないのではないか、という問題です。この記事では、他人所有地に上下水道設備を設置する承諾が争われた裁判例をもとに、相続した私道接道物件で確認したいライフラインの問題を整理します。
水道が使えていても「将来も掘削できる」とは限らない
相続した建物で現在普通に生活できていれば、「水道も使えているから問題ないだろう」と思ってしまいがちです。しかし不動産として確認したいのは、現在水が出るかどうかだけではありません。重要なのは、水道管や排水管がどこを通っているのかです。
公道の下に水道本管があり、そこから自分の土地まで給水管が引き込まれていても、その途中に第三者所有の私道が存在することがあります。将来、建替え、老朽化した給水管の交換、口径変更、配管位置の変更といった工事が必要になれば、私道を掘削しなければならない可能性があります。
「今、水道が使える」ことと「将来、問題なく掘削工事ができる」ことは別問題です。

実際に「他人の土地へ上下水道管を設置したい」と争われた裁判
今回取り上げるのは、札幌地方裁判所令和2年10月29日判決です。土地所有者Xは、自分が所有する本件土地3に建物を建てようとしていました。しかし上下水道を利用するには、隣接する本件土地1と本件土地2に給排水設備を設置する必要がありました。
そこでXは、公共汚水・雨水桝や排水設備、上下水道管の設置、工事のための掘削・立入りについて承諾を求めました。問題となった土地は単独所有ではなく、本件土地1はX、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5による共有、本件土地2もX、Y1、Y2による共有でした。私道でも、誰の道路かだけでなく、何人がどのような持分で所有しているかまで確認することが重要です。
相続した私道付き不動産の通行・掘削承諾や近隣ルールについては、相続した土地の前面道路が私道だった場合の確認ポイントでも整理しています。

裁判所は設備設置・掘削・土地使用を認めた
裁判所は、Xの請求を全面的に認めました。下水道については、下水道法11条1項により、他人の土地や排水設備を使用しなければ公共下水道へ排水することが困難な場合、他人の土地や設備にとって最も損害の少ない場所・方法で排水設備を設置したり、他人の排水設備を使用したりできるとされています。設備設置のためやむを得ない場合に、他人の土地を使用できることも規定されています。
今回の裁判で特に注目したいのは上水道です。判決当時、上水道の給水設備には下水道法11条のような明文規定がありませんでした。それでも裁判所は、上水道が衛生的で快適な居住環境を確保するために不可欠であり、宅地利用における給水設備の必要性が大きいことなどを指摘し、下水道法を類推適用して、他人地への給水設備の設置や工事のための土地使用ができると判断しました。承諾を求める権利も含まれるとしました。
ただし、好きな場所を自由に掘れるわけではない
他人地を利用する権利が認められるからといって、必要だからどこでも自由に掘削してよいという意味ではありません。必要性、必要な範囲に限ること、土地所有者への影響をできるだけ小さくすることが重要です。

この裁判のあと、民法にもライフラインのルールが明文化された
今回の判決は2020年10月29日のものです。その後の民法改正により、2023年4月1日から、電気・ガス・水道などのライフライン設備について他人の土地を利用するためのルールが明文化されています。
資料では、電気・ガス・水道などの供給を継続的に受けられない土地の所有者について、必要な範囲で他人地にライフライン設備を設置する権利や、他人所有のライフライン設備を使用する権利が明文化されたと整理されています。設備設置等を行う場合には、目的・場所・方法について土地や設備の所有者へあらかじめ通知することも示されています。判決と法改正の直接の因果関係を示すものではありませんが、現在はライフライン設備をめぐる土地利用のルールが法律上明確になっています。

相続した土地が私道接道だったら何を確認すればよい?
法律上、他人地にライフライン設備を設置できる場合があるからといって、「私道でも法律があるから何も調べなくてよい」ということにはなりません。相続物件を売却・建替えするなら、実際の権利関係を早めに確認しておくことが重要です。
- 前面道路の所有者は誰か
公道か私道か、単独所有か複数人の共有かを確認します。 - 相続した土地に私道持分が付いているか
宅地だけでなく、前面道路の登記関係も確認します。 - 上下水道管がどこを通っているか
本管の有無だけでなく、本管から建物までの給排水管がどの土地の下を通るかを確認します。 - 掘削や設備利用について書類が残っているか
掘削承諾書、通行・掘削に関する覚書、ライフライン設備の合意書などを、売買資料や権利証関係の書類とともに探します。 - 建替え・設備更新時にどのような工事が必要になるか
老朽管の交換、口径変更、配管位置の変更、新設備の設置などで掘削が必要になる可能性を確認します。
接道や道路幅員を含む建替え条件は、再建築不可の可能性がある物件で確認したいポイントもあわせて確認してください。

相続した物件では「今まで問題なかった」が落とし穴になる
相続物件で難しいのは、これまで何十年も普通に使えていたという事実です。親が所有していたころから問題なく水道を使え、近隣とのトラブルも聞いたことがないと、相続した側も「昔から使えているのだから大丈夫だろう」と考えがちです。しかし、現在利用できていることと、将来設備工事を行えることは別です。売却、建替え、大規模修繕、給排水設備の更新のタイミングで、道路やライフラインの問題が初めて表面化することがあります。
売却するなら、買主に指摘される前に整理しておく
相続した土地を売却する場合、買主にとっては水道が現在使えるかだけでなく、将来建替えたときにも利用できるかが重要です。私道に接する土地では、私道の所有関係・持分・通行関係・上下水道管の位置・掘削や設備利用に関する書類などが確認事項になります。
売却活動を始めてから問題が判明すると、追加調査や説明が必要になる可能性があります。売却を決めてから調べるのではなく、売却を検討し始めた段階で道路とライフラインの状態を整理する進め方が理想です。説明資料の整理については、不動産売却前に確認したい説明不足トラブルの予防ポイントも参考になります。
「法律上使える可能性がある」と「問題なく売れる」は別
今回の裁判では、他人地を利用しなければ上下水道を利用できない土地について、設備設置や土地使用が認められました。現在は民法にもライフライン設備のルールが明文化されています。ただし、法律上権利が認められる可能性があることと、現実にトラブルなく工事・売却できることは別です。
土地所有者との調整が必要になれば時間も手間もかかります。購入する側から見ても、「問題になったら法律で解決できます」という土地より、「権利関係や必要な書類が整理されています」という土地の方が検討しやすいでしょう。
相続した土地では、道路の「地下」まで確認する
相続した土地が私道に接していたら、道路の幅や建築基準法上の扱いだけを見るのでは十分ではありません。その地下を通る水道管や排水管などのライフラインまで確認することが重要です。
- 他人地を利用しなければ上下水道を利用できない場合でも、一定の条件下では設備設置・土地使用が認められる場合がある
- 現在は民法にもライフライン設備に関する権利が明文化されている
- それでも売却や建替えの前には、実際の私道所有関係・配管経路・書類・工事方法を確認する必要がある
「昔から水道が使えているから大丈夫」で終わらせず、「その水道管はどこを通っているのか」まで確認する。私道に接する相続不動産では、そこまで調べて初めて将来の売却や建替えについて判断しやすくなります。
注意書き
本記事は、札幌地方裁判所令和2年10月29日判決を紹介したRETIO「最近の裁判例から ⑿-上水道工事等承諾請求-」をもとに、相続不動産の売却・建替えを検討する方向けに整理したものです。個別の土地について設備設置や土地使用の権利が認められるかは、所有関係、設備状況、代替経路、工事方法などによって異なります。
