賃貸物件を所有している方の中には、管理会社へ委託せず、自分で入居者対応や家賃管理を行っている方もいます。
自主管理には、管理委託料を抑えられるというメリットがあります。
一方で、賃貸管理の仕事は、家賃の入金確認や設備故障の受付だけではありません。
入居者による騒音、無断同居、近隣トラブル、威圧的な言動などが発生した場合、家主自身が苦情を受け、事実を確認し、問題を起こしている入居者へ改善を求める必要があります。
対応を誤れば、問題を起こしていない入居者が退去し、空室損失が発生することもあります。
今回は、借主による深夜の騒音や貸主への脅迫的な言動について、賃貸借契約の解除と約421万円の支払いが認められた判例をもとに、自主管理で起こり得る問題と管理会社の役割を考えます。
自主管理は、家賃を受け取るだけではありません
賃貸物件の自主管理を始める際、家主が想定している業務は、次のようなものではないでしょうか。
- 家賃の入金を確認する
- 更新契約を行う
- 設備故障の連絡を受ける
- 退去時に室内を確認する
もちろん、これらも重要な管理業務です。
しかし、実際の賃貸経営では、入居者同士のトラブルや契約違反への対応が必要になることがあります。
例えば、次のような問題です。
- 深夜や早朝の騒音
- ゴミ出しや共用部分の利用ルール違反
- 契約者以外の無断同居
- ペットの無断飼育
- 住居以外の用途での使用
- 他の入居者や近隣住民への迷惑行為
- 家主や管理担当者への威圧的な言動
- 注意しても改善されない契約違反
こうした問題が発生した場合、電話で一度注意すれば終わるとは限りません。
苦情内容の記録、事実確認、警告書の作成、相手方との交渉、被害を受けている入居者への説明など、継続的な対応が必要になります。
深夜の騒音が続き、階下の入居者が退去した事例
今回取り上げる判例では、貸主がマンションの一室を月額17万3,000円で借主に賃貸しました。
ところが、借主の入居直後から複数の人物が頻繁に出入りし、深夜に足音や物を引きずるような騒音を発生させるようになりました。
階下の入居者は、就寝中に騒音を聞かされ、睡眠を妨げられていました。
苦情を受けた貸主は、借主に口頭で注意しましたが、騒音は改善しませんでした。
そこで貸主は、騒音を立てる行為が契約違反に当たることを記載した通知書を渡し、借主から署名を受けました。
さらに、契約時には届け出られていなかった同居人の存在が判明したため、貸主は賃料を増額したうえで同居を認め、騒音に注意する旨の同意書も取り交わしました。
貸主は、いきなり契約解除を求めたわけではありません。
口頭注意、書面による警告、同意書の取り交わしと、段階を踏んで改善を求めていました。
しかし、それでも騒音は止まりませんでした。
話合いの場で、貸主が逆に責められた
騒音が続いたため、貸主は借主や同居人らと話合いを行いました。
貸主が、床に敷物を敷くなど部屋の使い方を改善してほしいと求めたところ、同居人は貸主に対して怒鳴り、借主が仕事に行けなくなったのは貸主の責任だと主張しました。
さらに、転居費用、休業補償、慰謝料などの支払いを求めました。
貸主は相手方の強い言動によって困惑し、一定期間借主に連絡しないことや、連絡した場合には賃料6か月分を支払うという内容の誓約書に署名させられました。
本来は、騒音を改善するための話合いです。
ところが、家主自身が相手方から責められ、不合理な約束をさせられる状況になっていました。
自主管理では、このような交渉も家主自身が行わなければならない場合があります。
問題を起こしていない入居者が先に退去
話合いの後も、騒音は改善しませんでした。
そして、騒音被害を受けていた階下の入居者は退去しました。
貸主は、騒音を出している借主が住み続けている状態で新たな入居者を募集すれば、同じ被害が繰り返されると考え、階下の部屋に新しい入居者を入れることができませんでした。
その後、貸主は借主との賃貸借契約を解除し、建物の明渡しや損害賠償を求めて裁判を起こしました。
この事案は、東京地方裁判所の令和4年4月28日判決です。
裁判所は、借主らによる騒音行為と貸主への脅迫的な言動を認定し、貸主と借主の信頼関係は破壊されたと判断しました。
その結果、賃貸借契約の解除が認められ、借主らに対して約421万円の支払いが命じられました。
この約421万円には、単一の「慰謝料」ではなく、契約解除後の使用料相当損害金、階下住戸を貸せなかったことによる逸失利益、防犯カメラ費用、弁護士費用などが含まれています。
迷惑入居者の問題は、その部屋だけでは終わりません
この判例で注目すべきなのは、契約解除が認められたことだけではありません。
裁判所は、騒音被害を受けた階下の入居者が退去し、その後、同室を賃貸できなかったことによる損害についても認めました。
問題入居者による損失は、その入居者が使用している部屋の賃料滞納や原状回復費用だけではありません。
他の入居者が退去すれば、次のような損失が発生します。
- 退去後の空室期間
- 新たな入居者を募集するための費用
- 原状回復工事や清掃費用
- 仲介会社へ支払う広告費
- 建物全体の評判低下
- 他の入居者からの追加退去
入居者から騒音の苦情が入ったとき、問題を起こしている側への対応だけに目を向けてはいけません。
被害を受けている入居者が、どのような状態に置かれているかを確認し、適切に対応する必要があります。
入居審査だけですべてのトラブルを防ぐことはできません
迷惑入居者の問題を考えると、「入居審査を厳しくすれば防げるのではないか」と思うかもしれません。
しかし、入居審査だけですべてのトラブルを見抜くことは困難です。
申込時に問題がなくても、入居後に生活状況が変化することがあります。
また、契約時に申告されていなかった人物が同居を始めたり、他の人物が頻繁に出入りしたりする場合もあります。
それでも、入居審査は重要です。
管理会社や仲介会社では、一般的に次のような情報を確認します。
- 申込者の勤務先や収入
- 転居理由
- 入居予定者
- 緊急連絡先
- 保証会社の審査結果
- 過去の申込内容との不自然な点
- 物件の利用目的
入居審査によってトラブルを完全に防げるわけではありませんが、申込内容を整理し、契約条件を明確にすることで、リスクを下げることはできます。
重要なのは、審査を通して終わりにしないことです。
入居後も、契約内容と実際の利用状況に違いがないかを確認し、問題が発生した場合に早期対応できる体制が必要です。
迷惑行為が発生した後に必要な対応
入居者による迷惑行為が発生した場合、家主や管理会社には段階的な対応が求められます。
苦情内容を記録する
入居者から苦情を受けた際は、次の内容を記録します。
- 苦情を受けた日時
- 問題行為が発生した日時
- 騒音や迷惑行為の内容
- 被害の程度
- 継続時間や頻度
- 録音、写真、動画の有無
- 警察への通報の有無
「以前からうるさい」「何度も困っている」という情報だけでは、後から対応経過を整理することが難しくなります。
事実確認を行う
苦情を申し出た入居者の話だけで、相手方が契約違反をしていると決めつけるのも適切ではありません。
本人への聞き取り、他の入居者への確認、現地確認などを行い、できる限り客観的に状況を把握します。
問題を起こしている入居者へ注意する
最初は電話や訪問による注意でも構いません。
ただし、改善されない場合は書面で警告し、記録を残します。
警告書には、次の内容を記載します。
- 問題となっている行為
- 発生日時
- 賃貸借契約や管理規約の根拠
- 改善を求める内容
- 改善期限
- 改善されない場合の対応
被害を受けている入居者へ説明する
苦情を申し出た入居者に対して、何も説明しないままでは不信感が高まります。
相手方へ注意していること、引き続き記録を残してほしいこと、必要に応じて警察へ相談してほしいことなどを伝えます。
ただし、相手方との交渉内容や個人情報をすべて開示できるわけではありません。
説明できる範囲を整理しながら、対応していることを伝える必要があります。
改善されない場合は専門家へ相談する
迷惑行為が続いていても、直ちに賃貸借契約を解除できるとは限りません。
契約解除や明渡しを検討する場合は、迷惑行為の内容、頻度、注意後の対応、他の入居者への影響などを整理し、弁護士へ相談する必要があります。
家主が一人で対応するリスク
自主管理では、相手方との距離が近くなりやすいという問題があります。
家主が直接連絡すると、借主は契約上の問題ではなく、個人的な対立として受け取ることがあります。
また、相手が感情的になった場合、家主側も冷静に対応し続けることが難しくなります。
今回の判例でも、貸主は話合いの場で相手方から強く責められ、不合理な誓約書に署名させられました。
家主が一人で対応する場合、次のようなリスクがあります。
- 感情的な口論になる
- 不用意な発言をしてしまう
- その場を収めるために不利な約束をする
- 注意内容や交渉経過が記録に残らない
- 被害を受けている入居者への対応が遅れる
- 弁護士へ相談する時期を逃す
- 家主自身が精神的に消耗する
特に、怒鳴る、金銭を要求する、長時間拘束するといった言動がある場合は、家主一人で話合いを続けるべきではありません。
管理会社に任せる意味
管理会社へ管理を委託する意味は、家賃回収を代行してもらうことだけではありません。
入居者との間に第三者が入り、問題が発生したときの対応窓口を一本化できる点に大きな意味があります。
管理委託契約の内容によっては、一般的に次のような対応を依頼できます。
- 入居申込みの受付と内容確認
- 保証会社との連携
- 入居者や同居人の確認
- 家賃の入金管理
- 設備故障や苦情の受付
- 迷惑行為の記録
- 問題入居者への注意
- 契約違反に関する注意書面の作成や送付
- 他の入居者への状況確認
- 所有者への経過報告
- 弁護士への相談が必要かどうかの整理
管理会社が間に入ることで、貸主と借主が直接対立することを避けやすくなります。
また、日頃から記録を残していれば、問題が長期化した場合も、それまでの対応経過を整理しやすくなります。
管理会社に任せれば、必ず解決するわけではありません
ただし、管理会社へ委託すれば、すべてのトラブルを防げるわけではありません。
管理会社にも、対応できる範囲とできない範囲があります。
例えば、賃貸借契約の解除や建物の明渡しについて、管理会社だけで最終判断することはできません。
法的手続が必要な場合は、弁護士との連携が必要です。
また、管理会社によっても対応品質は異なります。
管理会社を選ぶ際は、管理料の金額だけでなく、次の点も確認したほうがよいでしょう。
- 苦情を受け付ける時間帯
- 夜間や休日の緊急対応
- 入居者への注意方法
- 書面による警告の対応範囲
- 現地確認の有無
- 保証会社との連携方法
- 所有者への報告方法
- 弁護士との連携体制
- 迷惑行為が長期化した場合の対応方針
管理委託契約を結ぶ際は、どこまでが通常管理業務に含まれ、どこからが別料金になるのかも確認しておく必要があります。
自主管理を続けるか判断するチェックリスト
現在、自主管理をしている家主は、次の項目を確認してみてください。
- 入居者からの連絡を受けられない時間帯がある
- 苦情の内容を記録していない
- 賃貸借契約書や管理規約をすぐ確認できない
- 入居者一覧や同居人の情報が整理されていない
- 家賃の入金状況を毎月確認できていない
- 威圧的な相手との交渉に不安がある
- 複数の賃貸物件を所有している
- 高齢の親から管理を引き継ぐ予定がある
- 保証会社との連絡方法が分からない
- 弁護士へ相談する基準が決まっていない
複数当てはまる場合は、自主管理を続けることが本当に適切か、一度見直したほうがよいかもしれません。
すべての業務を管理会社へ任せる方法だけでなく、募集、家賃管理、苦情対応など、必要な業務だけを委託できる場合もあります。
まとめ
自主管理には、管理委託料を抑えられるというメリットがあります。
一方で、迷惑入居者が発生した場合、家主自身が苦情受付、事実確認、注意、警告、交渉、被害入居者への説明まで行わなければなりません。
今回の判例では、借主による深夜の騒音や貸主への脅迫的な言動が続き、最終的に賃貸借契約の解除と約421万円の支払いが認められました。
しかし、その結論に至るまでに、階下の入居者は退去し、貸主自身も相手方との交渉で大きな負担を受けています。
賃貸管理で重要なのは、問題が起きてから契約解除できるかを考えることだけではありません。
入居審査、契約内容の整理、入居後の記録、苦情への初期対応を継続し、問題を大きくしない体制をつくることが重要です。
管理会社へ委託する意味は、家賃を回収してもらうことだけではありません。
問題が発生したときに、家主が一人で矢面に立たず、客観的な記録を残しながら対応できる体制を整えることにあります。
現在自主管理している物件について不安がある場合は、まず次の資料を整理してみましょう。
- 賃貸借契約書
- 入居者と同居人の一覧
- 家賃の入金状況
- 保証会社や連帯保証人の情報
- 過去の苦情や修繕履歴
- 入居者との連絡記録
現在の管理状況を整理することで、自主管理を続けるべきか、管理会社へ委託すべきか、どの業務だけを任せるべきかが見えやすくなります。
横浜不動産総合窓口では、管理委託を前提とせず、現在の管理状況や入居者対応の課題について確認しています。
相続した賃貸物件の管理方法が分からない方や、自主管理を続けることに不安がある方は、お気軽にご相談ください。
出典
- 東京地方裁判所 令和4年4月28日判決(ウエストロー・ジャパン)
- 一般財団法人 不動産適正取引推進機構 RETIO No.130「最近の裁判例から ⑽-借主の迷惑行為と信頼関係破壊-」
注意事項
※本記事は、東京地方裁判所令和4年4月28日判決を題材とした一般的な情報提供です。実際の契約解除や明渡請求については、個別の契約内容や事実関係によって判断が異なります。法的手続を検討する場合は、弁護士などの専門家へご相談ください。
