親から相続した家を売る前に確認したい“見えない不具合”|天井裏の異常が問題になった判例

相続した家の売却前に、通常の内覧では見えにくい建物内部の異常や過去の履歴をどう確認するかを、鳥害が問題になった裁判例を参考に整理します。

相続した家を売る前に見えない不具合を確認する重要性を示す記事サムネイル

横浜不動産総合窓口では、横浜市内の空き家について、売却・賃貸活用・管理・解体を検討するための一般的な整理情報を掲載しています。

親から相続した家を売却するとき、相続人がその家のことをすべて知っているとは限りません。

「雨漏りをしたことはあるのか」
「過去にどこを修繕したのか」
「害虫や害獣の被害はなかったのか」
「以前から気になる臭いや音はなかったのか」

親が長年所有していた家であれば、こうした建物の履歴を相続人が把握していないこともあります。

特に注意したいのが、室内を見ただけでは分からない“見えない不具合”です。

今回紹介するのは、購入したマンションの床下や天井裏、ユニットバス裏などから、ムク鳥の死骸19羽、糞、巣跡などが発見され、売主に191万円の損害賠償が認められた裁判例です。

この裁判自体は、相続した不動産の売却をめぐる事件ではありません。

それでも、「売却時には見えなかった建物内部の問題が、引渡し後に発覚した」という点で、相続した家を売却する方にも参考になる事例です。

購入後、天井裏などから鳥の死骸19羽

平成30年5月、買主らは、法人が社宅として使用していた15階建てマンションの11階部分を4,450万円で購入しました。

契約後の内見時には、買主の一人が全身に発疹を生じ、病院でダニアレルギー症と診断されています。

その後、引渡しを受けて生活を始めたところ、当初から室内に悪臭を感じました。

そこでリフォーム工事業者に原因究明を依頼し、数回にわたって建物内部を調査したところ、床下、天井裏、ユニットバス裏などの空間から、大量のムク鳥の死骸、糞、巣跡などが発見されました。

死骸は合計19羽にのぼりました。

内覧では見えなかった天井裏・床下・ユニットバス裏に残った鳥の死骸、糞、巣跡と侵入経路の図解
内覧では見えなかった場所に、何があったのか

これらは、通常室内に立ち入っただけでは見ることのできない場所に存在していました。

野鳥の侵入経路については、建物内部とバルコニーとの間に設けられたエアコン配管の穴だったと推測されています。

買主らは死骸の撤去や清掃、消臭などを行い、売主に対して改修工事費など合計471万円余の損害賠償を求めました。

なぜ「見えない不具合」が問題になったのか

裁判所が問題にしたのは、単に「天井裏に鳥の死骸があった」ということだけではありません。

一般に動物の死骸などを放置すれば、腐敗や悪臭が発生し、ダニや雑菌などが繁殖して、居住者に健康被害を生じさせるおそれがあります。

今回の物件についても、相当な悪臭が発生していたことが認められました。

さらに、買主の一人が発症したダニアレルギー症についても、死骸などの影響によるものと推認されています。

裁判所は、こうした状態について、居住用の建物として通常備えるべき品質・性能を欠いているとして、建物の瑕疵に当たると判断しました。

ここで相続した家を売却する方が意識しておきたいのは、建物の不具合は、外から見て分かるものだけではないということです。

雨漏りやひび割れ、設備故障のような分かりやすい問題がなくても、天井裏や床下、配管まわりなど、普段は確認しない場所に問題が残っていることがあります。

売主に認められた損害賠償は191万円

買主側は、売主に対して合計471万円余を請求しました。

その主な内訳は、

  • 改修工事費 398万円余
  • 宿泊費 25万円
  • 死骸等撤去作業費 18万円
  • 慰謝料 30万円

でした。

裁判所が最終的に認めたのは、改修工事費 143万円
死骸等撤去作業費 18万円
慰謝料 30万円の合計191万円です。

買主の請求額471万円余と裁判所が認めた191万円の内訳を示す図解
請求471万円余のうち、認められたのは191万円

売主側は、野鳥の巣跡の清掃と臭いの除去であれば20万円程度で済むと主張していました。

しかし裁判所は、居宅としての品質を確保するには、清掃だけでなく衛生上の対策として消毒も必要だと判断しています。

一方、工事中の宿泊費については、建物全体で生活できなくなるわけではないとして損害とは認められませんでした。

買主から請求された金額がそのまま認められたわけではありませんが、売却後に発見された建物内部の問題によって、売主に相応の負担が生じた事例といえます。

原因は、過去の大規模修繕時の小さな見落とし

この事例でもう一つ注目したいのが、野鳥が建物内部へ侵入した原因です。

判例解説によれば、かつてマンション全体で大規模修繕を実施した際、エアコン配管の穴を塞ぐ蓋が閉められていなかったことが野鳥侵入の原因だったとされています。

最初は、小さな開口部の問題でした。

ところが、そこから複数の野鳥が建物内部へ出入りし、見えない場所に死骸や巣、糞などが残る状態になりました。

そして悪臭や衛生上の問題へ発展し、最終的には売却後の損害賠償問題につながっています。

エアコン配管穴から野鳥が侵入し、建物内部の死骸や悪臭を経て売却後の損害賠償問題に至る流れの図解
小さな開口から、売却後の責任問題へ

相続した家を売却するとき、この点は特に参考になります。

なぜなら、現在の建物状態をつくった工事や修繕を、相続人自身が行ったとは限らないからです。

親の所有時代に行った修繕かもしれません。

さらに以前の所有者が行った工事かもしれません。

マンションであれば、管理組合が実施した大規模修繕などが関係している場合もあります。

相続人からすると、「自分が知らない過去の出来事」が現在の建物状態に影響している可能性があります。

相続すると、所有権は引き継げても「建物の記憶」までは引き継げない

相続した不動産の売却で難しいのは、ここです。

登記や権利関係は資料を調べれば確認できます。

しかし、「10年前に一度、天井から変な音がした」「以前、鳥が入って業者を呼んだ」「浴室の近くで臭いがすると言われたことがある」「昔、どこかの穴を塞いでもらった」といった建物についての細かな記憶は、所有者本人の中だけに残っていることがあります。

親が亡くなった後では、その経緯を確認できないこともあります。

賃貸していた物件なら、さらに情報が分散します。

親だけでなく、管理会社、過去の入居者、修繕業者などが、それぞれ建物について異なる情報を持っている可能性があります。

つまり、「自分は聞いていない」ことと、「その家で何も起きていなかった」ことは同じではありません。

相続した家を売却するときには、この違いを意識しておきたいところです。

売却前に確認したいのは、建物だけではなく「過去の履歴」

では、相続した家を売る前に、天井や床をすべて開けて調査しなければならないのでしょうか。

そういう話ではありません。

今回の判例から考えておきたいのは、気になる兆候や過去の履歴が残っていないかを確認することです。

例えば、相続した家に次のような資料が残っていないか確認してみます。

  • 過去の修繕工事の見積書・請求書
  • リフォームの記録
  • 害虫・害獣駆除の記録
  • 賃貸していた場合の管理会社の対応履歴
  • 入居者から寄せられた過去の申告
  • マンションの大規模修繕に関する資料

これらは今回の判例で示された確認項目ではありませんが、相続物件について過去の状態を把握するための実務上の手掛かりになります。

「何を直したのか分からない請求書がある」「害虫駆除を何度も行っている」「管理会社の記録に原因不明の異臭対応が残っている」といった情報があれば、売却前に確認した方がよい部分を見つけるきっかけになります。

小さな「異変のサイン」を見落とさない

今回の判例解説では、同様のトラブルを避ける観点から、物件の内覧時には悪臭の有無など、匂いにも十分注意する必要があると指摘しています。

相続した家を確認するときにも、目に見える建物の状態だけでなく、小さな違和感を拾っておくとよいでしょう。

におい

原因不明の異臭、カビ臭、腐敗臭などがないか。

虫・鳥・小動物

侵入した形跡、糞、巣、虫の大量発生などがないか。

原因不明の音

天井裏や壁の中から音がするなど、気になる兆候がないか。

開口部や隙間

エアコン配管穴、換気口、外壁との隙間などに問題がないか。

過去の履歴・申告

親が残した資料や管理会社の記録に、気になる対応履歴がないか。

相続した家の売却前に確認したいにおい、虫や鳥、原因不明の音、開口部、過去の履歴の図解
売却前に拾っておきたい「相続した家の異変のサイン」

ここでも、相続人自身で原因を特定する必要はありません。

大切なのは、「よく分からないから関係ない」と切り捨てず、気になる情報があれば売却を依頼する仲介会社などへ共有することです。

必要があれば、その段階で専門業者による確認を検討できます。

相続した家だからこそ、「分からないこと」を整理してから売る

今回紹介した裁判は、相続物件の売却をめぐる事件ではありません。

しかし、通常の内覧では確認しにくい場所に問題が存在し、引渡し後に発覚して売主の損害賠償責任につながったという点は、相続した家を売却する際にも参考になります。

相続した家について、親がどのように管理し、どんな修繕をしてきたのか。すべて把握できていないこと自体は珍しいことではありません。

問題なのは、分からない部分があるにもかかわらず、「たぶん問題ないだろう」と、そのまま売却を進めてしまうことです。

親が残した書類を確認する。管理会社に過去の対応履歴を確認する。現地で異臭や侵入痕などがないかを見る。気になる情報があれば仲介会社へ伝える。

こうした確認を重ねることで、「分からないこと」の範囲を少しずつ狭めることができます。

相続した家を売却するときは、査定価格や売却方法だけでなく、「この家について、自分が知らないことは何だろう」という視点から一度建物を見直してみることも大切です。

参考判例・出典

  • 東京地方裁判所 令和3年9月30日判決
  • RETIO「最近の裁判例から ⑸-害獣被害と損害賠償-」
  • 事案概要: 居宅目的で購入したマンションの床下・天井裏・ユニットバス裏等からムク鳥の死骸19羽、糞、巣跡等が発見された事例
  • 認定損害: 改修工事費143万円、死骸等撤去作業費18万円、慰謝料30万円、合計191万円

重要: この裁判例自体は相続不動産の売買に関する事例ではありません。記事では、通常の内覧では確認しにくい建物内部の不具合が引渡し後に発覚した点を、相続物件売却時の情報整理・確認という観点から紹介しています。判例の事実と、相続人向けの実務上の提案を混同しないようご注意ください。

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