築年数の経過した住宅やアパートを売却するとき、「古いまま売るより、リフォームしてきれいにしてから売ったほうが高く売れるのでは?」と考える方もいるでしょう。
確かに、クロスや床、水回りなどをリフォームすれば、購入希望者が受ける印象は大きく変わります。しかし、見た目をきれいにすることと、建物そのものに問題がないことは別です。
実際に、築25年以上の建物について、売主が756万円をかけて内装工事をして売却したものの、その後、外壁内部に防水紙が施工されていなかったことが判明し、売主に744万円の損害賠償が認められた裁判例があります。今回は、東京地方裁判所令和3年8月31日判決をもとに、築古物件をリフォームしてから売却するときに考えておきたいポイントを解説します。
756万円の内装工事をして売却した築25年以上のアパート
問題となったのは、平成元年6月に新築された木造2階建てのアパートです。平成26年11月、宅建業者であるYは、この建物と借地権を6,200万円で購入しました。
その後、Yは756万円をかけて建物の内装工事を行い、「全室内装済み」として物件を売り出しました。平成27年6月、個人であるXが土地・建物を1億2,000万円で購入し、同年9月に引渡しを受けます。
ところが、約2年後の平成29年6月。建築士による調査で、外壁内部に防水紙などの防水材がまったく施工されていないことが判明しました。Xは、これによって雨漏りを引き起こす構造上の瑕疵が存在するとしてYに損害賠償を請求しました。しかしYが対応しなかったため、令和元年5月、修繕工事費用など1,116万円余の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。

「フルリフォーム済み」と説明したから責任を負ったわけではない
この裁判例について、最初に整理しておきたいポイントがあります。買主Xは、Yが本件建物を「フルリフォーム済み物件」として販売したため、建物には構造上の問題がないことを前提として購入したと主張しました。一方、売主Yは、「フルリフォーム」という言葉は使用していないと反論しました。
裁判所も、Yが「フルリフォーム済み」と説明して販売したと認めるだけの証拠はないとしています。つまり、この裁判例は、「フルリフォーム済みと表示したから売主が責任を負った」という単純な事案ではありません。問題になったのは、売買された建物そのものに、売買契約時点ですでに瑕疵が存在していたことです。
外壁内部に「防水紙」が施工されていなかった
今回問題になったのが、外壁内部の防水工事です。裁判所は、建物が新築された平成元年当時、木造外壁にサイディング材を使用する場合、防水紙を施工することが標準的な工法だったと判断しました。
ところが、本件建物には防水紙が張られた形跡がなく、同等の防水工事が行われた形跡もありませんでした。そのため裁判所は、この建物について、新築時点から通常有すべき品質・性能を有していなかったと判断しています。防水工事がされていなければ、外壁内部に水が入り、湿度が上昇します。その結果、木造の構造部分が通常の経年劣化を超えて腐食し、柱などの構造体にも影響することが容易に推認できるとされました。

普通に内覧しただけでは分からない「隠れた瑕疵」だった
さらに問題なのは、この防水紙の未施工が、建物を普通に見ただけでは分からなかったことです。本件の瑕疵は、内壁を撤去して初めて判明しました。裁判所は、一般的に予見できるものではなく、買主Xが売買契約時に認識していた、または認識できたと認めるだけの証拠もないとして、「隠れた瑕疵」であると判断しました。つまり、室内がきれいかどうかとは別に、壁の中に売買後のトラブルにつながる問題が残っていたことになります。
内装をリフォームしても、建物全体を直したことにはならない
ここは、築古物件を売却する方にとって重要なポイントです。本件では、売却前に756万円の内装工事が行われていました。しかし、内装をきれいにする工事と、建物の構造や防水性能などを調査・修繕することは別です。
たとえば、クロスを張り替える、床を張り替える、キッチンを交換する、浴室をきれいにするといった工事をすれば、物件の印象は大きく変わります。一方、それだけで外壁内部や構造部分などの問題まで解消されるわけではありません。「リフォームした=建物全体に問題がない」ではないという点は、売主側も意識しておく必要があります。
買主は1,116万円余を請求。しかし認められたのは744万円
この裁判例でもう一つ特徴的なのが、損害額の算定方法です。買主Xは、修繕工事費用、建築士による調査費用、弁護士費用などを損害として主張しました。しかし裁判所は、修繕工事費をそのまま損害額とは認めませんでした。修繕によって建物の価値が売買契約時より増加する場合や、建物の客観的価値を超える過度な修繕が行われる場合も考えられるためです。
そこで裁判所は、まずXが購入した建物価格7,200万円から、そこに含まれていると判断した借地権相当額5,700万円を控除しました。その結果、建物単体の価格を1,500万円と認定しました。一方、瑕疵がある状態での建物の客観的取引価格については、Yが支出した内装工事費用756万円と同額と認定しました。
したがって、1,500万円 − 756万円 = 744万円となり、この744万円について買主Xの請求が認められました。この裁判例では、修繕に必要な費用が、そのまますべて損害として認められたわけではない点にも注意が必要です。
では、築古物件はリフォームしてから売ったほうがいい?
この裁判例を見て、「それなら、築古物件はリフォームしないで売ったほうがいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、そう単純な話でもありません。リフォームによって物件の印象が改善し、購入希望者が検討しやすくなることもあります。一方で、売却前に多額のリフォーム費用をかけたとしても、その金額以上に売却価格が上がるとは限りません。
また今回の事案のように、内装をきれいにしても、建物内部に別の問題が存在している可能性もあります。「築古だから、とりあえずリフォームしてから売る」と決めるのではなく、まず建物の状態を確認し、そのうえでどこまで費用をかけるのかを検討することが重要です。
リフォームして売るなら「どこまで直したのか」を整理する
リフォームしてから売却する場合には、工事内容を記録しておくことも大切です。どの部分を工事したのか、いつ工事したのか、どのような工事をしたのか、誰が施工したのか、工事前後の写真、見積書・契約書・請求書などを残しておけば、売却時にリフォーム内容を具体的に説明しやすくなります。
「リフォーム済み」という言葉だけでは、買主から見て、建物のどこまで工事されたのか分かりません。今回の裁判例を紹介したRETIOの解説でも、リフォームを行った取引について、紛争防止という観点から、宅建業者はリフォーム内容を説明することが望ましいと指摘されています。直した部分と、直していない部分を区別して伝える。中古物件の売却では、この整理が買主との認識の食い違いを防ぐうえでも重要になります。現状有姿・契約不適合責任免責で売る前の告知事項もあわせて確認してください。
売却前に確認しておきたい4つのポイント
築古物件をリフォームしてから売るか迷っている場合は、少なくとも次の4点を整理してみましょう。
- 現在の建物状態を確認する
まず、どのような不具合や劣化があるのかを確認します。必要に応じて、建築士や工務店などの専門家による調査を検討する方法もあります。 - リフォームの目的を決める
見た目を改善するためなのか、不具合を修繕するためなのか。目的によって、必要となる工事も費用も変わります。 - リフォーム費用と売却価格を比較する
たとえば500万円をかけてリフォームしても、それによって売却価格が500万円以上高くなるとは限りません。 - 現況のまま売却する選択肢も比較する
すべてを直してから売却する必要があるとは限りません。物件の状態や買主のニーズによっては、現況のまま売却し、購入後のリフォームを買主に任せる方法も考えられます。
建物資料と現況に相違がないかも含めて確認したい場合は、既存不適格・違反建築の可能性がある建物の売却前確認も参考にしてください。
横浜で築古物件を売るなら、まず「直すべきか」から考える
築年数の経過した物件を見ると、「きれいにしてから売ったほうが高く売れそう」と考えがちです。しかし、先にリフォーム工事を発注することが、必ずしも最善とは限りません。建物の状態によっては、まず調査したほうがよい場合もあれば、大きな費用をかけず現況で売却するほうが適している場合もあります。今回の裁判例からも分かるように、見える部分をきれいにしたことと、建物全体の問題を解消したことは別です。
横浜市内で築古住宅・アパートなどの売却を検討している場合は、現況で売るのか。どこかを修繕するのか。リフォームしてから売るのか。を、物件の状態や想定される売却価格、工事費などを見ながら整理してから進めることをおすすめします。
※本記事は、東京地方裁判所令和3年8月31日判決を紹介したRETIO「最近の裁判例から ⑷-建物の瑕疵-」をもとに、築古物件の売却を検討する方向けに整理したものです。本件は旧民法下の「隠れた瑕疵」に関する裁判例であり、現行法の契約不適合責任一般について結論を示すものではありません。個別の契約や法的責任については、弁護士などの専門家へご相談ください。
