相続した実家やアパートを売ろうとして、初めて建物の資料を確認する。すると、確認済証や検査済証が見つからない、図面と現在の間取りが違う、昔に増築していたらしい、といったことが分かる場合があります。
そこで心配になるのが、「この建物、もしかして違法建築なのでは?」という問題です。ただし、古い建物だからといって直ちに違反建築というわけではありません。建築当時は適法だったものの、その後の法改正などによって現在の基準に適合しなくなった「既存不適格建築物」であることもあります。
確認済証や検査済証が見つからないというだけで、直ちに違反建築と断定できるわけでもありません。相続した建物を売却・改築・活用しようとする場合に重要なのは、最初から違法かどうかを決めつけることではなく、今、その建物がどのような状態にあるのかを把握することです。
既存不適格と違反建築は同じではない
言葉は似ていますが、意味は大きく異なります。
既存不適格とは
建築された当時の法律には適合していたものの、その後の法改正や都市計画上の規制変更などによって、現在の基準には適合しなくなった建物です。建てたときは適法でも、現在の基準には合っていない状態をいいます。
違反建築とは
建築時や増改築時などに、その当時適用されていた法令に適合していない建物です。建蔽率・容積率を超えた増築、必要な確認申請をせずに行った増築、本来認められない用途への変更などが考えられます。
「古い建物だから違反建築」ではありません。いつ、どのように建てられ、その後にどんな変更がされたのかを確認することが必要です。

相続した建物で見つかりやすい気になるサイン
相続人自身が建築や増改築に関わっていないため、過去の経緯が分からないことがあります。
確認済証や検査済証が見つからない
親や祖父母が長期間保有していた建物では、建築当時の書類が残っていない場合があります。ただし、書類がないことだけで違反建築と判断することはできません。行政に残っている資料なども含めて確認します。
図面と現在の建物が違う
内装変更にとどまる場合もありますが、車庫やバルコニーが居室になっている、建物が横や後ろに広がっている、物置が部屋になっているなど、面積や用途そのものが変わっている場合は確認が必要です。
登記面積と現況が違う・昔の増築履歴が不明
登記面積と実際の建物が一致していないだけで建築基準法違反とは限りませんが、なぜ違うのかを整理する必要があります。増築した時期や手続きが分からない場合も、現在使えているかだけでなく、当時どのような手続きを経て行われたのかが重要になります。
実際に法令違反がある建物をめぐって裁判になった事例
東京地方裁判所令和3年11月26日判決(RETIO「最近の裁判例から ⑵-建物の瑕疵-」)では、東京都内の共同住宅をめぐる売買が問題になりました。買主は法人で、社員寮等として使用する中古建物を探しており、本物件を1億500万円で購入しました。買主は1階部分を事務所へ改築することも考えていましたが、その具体的な改築目的が契約前に売主へ共有されていたかは、後に裁判で争われました。
建物には契約時点で、建蔽率超過、斜線制限違反、一部住戸の採光不足、吸気口の未設置など、建築基準法等に抵触する部分がありました。重要事項説明書には、過去に一部改装されていること、増改築時期が不明なこと、確認済証が保存されていないこと、検査済証が取得されていない理由も不明なこと、現況有姿で売買することなどが記載されていました。
購入後、買主が1階部分を住居から事務所へ改築しようとして相談したところ、法令に抵触する部分を解消しなければ希望する工事はできないと指摘されました。買主は売買契約の解除や錯誤、説明義務違反などを主張し、売買代金や諸費用を含めて約1億2656万円余の支払いを求めましたが、裁判所は請求をすべて棄却しました。
法令違反があったのに、なぜ売主の責任が認められなかったのか
法令上の問題が存在したこと自体は争いになっていましたが、裁判所は、「法令違反がある=売主が必ず責任を負う」とは判断しませんでした。時期不明の増改築、確認済証が保存されていないこと、検査済証を取得していない事情が不明なこと、現況有姿で購入することなどが契約時に明示されていたためです。
また、買主が考えていた1階を事務所に改築するという目的についても、契約締結前までに具体的な改築検討が行われ、その目的が売主側へ伝えられていたとは認めにくいとされました。買主自身が考えていた利用目的と、契約当事者間で共有された利用目的は別という点が重要です。

この裁判例は、法令上の問題があることと、売主が必ず責任を負うことは別であることを示す一例です。個別の契約内容や事前説明、利用目的の共有状況によって判断は異なります。
相続した物件を売る側は、分からないことを隠さない
この裁判で売主側の責任が認められなかったからといって、知らなかったことなら説明しなくてもよい、という意味ではありません。相続した建物では、確認済証は手元にない、増築時期は不明、現況と図面に相違がある、過去の改築内容を把握できていない、といったことがあります。
無理に「問題ありません」と断定するのではなく、分かっていることと、分からないことを整理することが大切です。相続物件を現況有姿で売却する場合の説明の考え方は、現状有姿・免責で売る前の告知事項もあわせて確認してください。
相続した建物を売る前に確認したい資料
まずは、建物に関する資料を集めます。
- 確認済証
建築確認申請を行い、計画が建築基準法等に適合しているとして交付された書類です。 - 検査済証
建築工事完了後の検査を受け、確認申請の内容に沿って完成していることが確認された場合に交付されます。 - 建築当時の図面
間取りだけでなく、配置、面積、高さ、敷地との関係が分かる資料は現況との比較に役立ちます。 - 増改築に関する資料
リフォーム会社との契約書、見積書、図面、領収書、写真などから、いつ頃どこを変更したかを整理します。 - 登記事項証明書・固定資産税関係の資料
建物面積や構造を確認する材料になります。ただし、登記や固定資産税の情報と建築基準法上の適法性は別の制度です。

「違反建築かどうか」を最初から決めつけるのではなく、まず今の建物の状態を把握することが出発点です。相続した実家で最初に確認する順番は、相続した実家は何から始める?でも整理しています。
問題がある建物だからといって、売却できないとは限らない
既存不適格や法令上の問題がある建物でも、直ちに売却できないと単純に決まるわけではありません。ただし、購入できる人が限定される、住宅ローンなど融資に影響する、改築や用途変更が難しくなる、将来の再売却や査定価格に影響することがあります。
すべてを直してから売却する必要があるとは限らず、現況のまま購入する買主を探す、建物の状態を説明したうえで価格に反映する、土地としての利用を前提に検討する、建物を解体して売却するなど、状況に応じた選択肢があります。接道や建替え条件も気になる場合は、再建築不可の可能性がある物件で確認したいポイントを確認してください。
まとめ|いくらで売れるかの前に、どんな建物なのかを確認する
相続した築古建物では、価格を考える前に、建築当時から適法なのか、既存不適格なのか、過去の増改築に問題がある可能性があるのか、単に資料が残っていないだけなのか、図面と現況は一致しているのかを整理することが重要です。
「知らなかったこと」そのものより、「分からないまま売却を進めること」のほうがリスクになることがあります。売る、貸す、改修する、解体する、残すという方針を決める前に、まず建物の状態を知るところから始めてみてください。
※本記事は東京地方裁判所令和3年11月26日判決およびRETIO「最近の裁判例から ⑵-建物の瑕疵-」をもとに一般的な不動産実務上の注意点を整理したものです。個別案件への法的・建築的助言ではありません。建物の適法性や売却方法は物件ごとに異なるため、必要に応じて建築士、弁護士、不動産会社等の専門家へご相談ください。
