土地を売却するとき、価格や引渡し時期だけでなく、「買主がその土地を何に使うのか」が重要になることがあります。
今回取り上げるのは、土地の利用目的をめぐって争われた裁判例です。
売主は以前、太陽光発電事業を目的とした購入申込みを断っていました。その後、別の買主から「居住用または別荘用として使用する」と説明され、土地を売却します。
ところが売却後、その土地で太陽光発電事業を行う計画があることが判明しました。
売主は錯誤などを理由に争い、裁判所は売主の錯誤を認めました。
興味深いのは、売買契約書や重要事項説明書に「太陽光発電は禁止」とする条項がなかったことです。
それでも、なぜ契約書に明記されていない利用目的が問題になったのでしょうか。
この裁判例で重要なのは、太陽光発電そのものの是非ではありません。
売主にとって利用目的が売却判断を左右する条件だった場合、それを契約前にどう確認し、相手と共有しておくか。
土地売却の実務という視点から見ていきます。
まず結論|禁止条項がなくても売主の「錯誤」が認められた
この裁判では、買主側から、「売買契約書や重要事項説明書に、太陽光発電事業を禁止する条項はない」という主張がされました。
それでも裁判所は、一連の経緯を踏まえて売主の錯誤を認めています。
ただし、「買主が説明と違う用途に使えば、いつでも契約を覆せる」という判例ではありません。
今回の事案では、契約に至るまでに特徴的な事情がありました。
「居住用・別荘用」のはずが太陽光発電へ――何があった?

最初の購入希望者Aは、当初、倉庫や古い電車置き場などとして土地を購入したいと申し入れていました。
その後、売主Xは、Aが太陽光発電事業を目的として土地を購入しようとしていることを知ります。
Xは、その目的では売却できないとして購入申込みを断りました。
その後Xは、住宅用として売却するには分筆したほうがよいとの助言を受け、分筆売却を前提とした売却活動を依頼します。
後の買主Yは、最初の購入希望者Aの父親だった
2019年、買主Yが土地の購入を申し込みます。
Yは媒介業者に「居住用または別荘用の土地を探している」と伝え、Xに対しても、本件土地を居住用または別荘用として使用するとして購入を申し入れました。
ここで重要なのが、Yは最初に太陽光発電目的で購入しようとしたAの父親だったことです。
裁判所は、YがAとの協議に基づき、太陽光発電事業を行うB社に土地を賃貸する目的で購入したと認定しています。
契約書等も「居住用」を前提に作られていた
XとYは、土地を1,130万円で売買する契約を締結しました。
媒介業者らも、Yの購入目的が居住用であることを前提として、売買契約書と重要事項説明書を作成していました。
その後、売買代金の支払い、土地の引渡し、所有権移転登記が行われます。
ところがXはその後、B社がYから土地を借り、太陽光発電事業を行う計画があることを知りました。
Xは土地について処分禁止仮処分を申し立て、その後Yに対して訴訟を提起します。
なぜ契約書に書いていない「利用目的」が問題になった?
買主Yは、売買契約書や重要事項説明書に太陽光発電を禁止する条項がないことなどを理由に、錯誤による契約の無効を争いました。
しかし裁判所は、契約書の文言だけでなく、契約に至る一連の経緯を見ています。

Xは以前、太陽光発電事業に使われると知ってAからの購入申込みを断っていました。
そして裁判所は、Yも「Xは太陽光発電事業用地としては土地を売る意思がない」ことを知っていたと認定しています。
その一方でYは、媒介業者やXに対し、居住用または別荘用として購入する旨の言動をしていました。
こうした経緯から裁判所は、Xの「居住用または別荘用として土地を売る」という動機は黙示に表示されており、Yもその動機を知っていたと判断しました。
つまり今回の判断は、「契約書に禁止条項があるか、ないか」だけで決まったわけではないということです。
ポイントは「売主の頭の中だけの希望」ではなかったこと
今回の売主は、売却後になって突然、「本当は太陽光発電には使ってほしくなかった」と言い出したわけではありません。
実際に以前、太陽光発電事業を目的とした購入申込みを断っていました。さらに裁判所は、Yもその事情を知っていたと認定しています。
つまり、売主の頭の中だけにある希望と、契約するかどうかを左右する動機が相手にも認識されていた場合は分けて考える必要があります。
そのため、この裁判例を、「想定していた用途と違えば、錯誤を主張できる」と一般化するのは適切ではありません。
今回の判断は、当事者間の具体的なやり取りや、それまでの経緯を前提としたものです。
この判例の「錯誤無効」を現在の法律として読んではいけない
もう一つ重要なのが、この売買契約は2020年4月施行の改正民法より前の事案だということです。
そのため、この裁判では錯誤による「無効」が問題になっています。現在の民法では扱いが変わっています。

2020年4月の民法改正により、錯誤の効果は「無効」から「取消し」へ変更されました。
また、元資料では、錯誤による取消しは善意無過失の第三者に対抗できないと説明されています。
したがって、この裁判例を現在の土地売買にそのまま当てはめて、「利用目的が違えば、売買契約は無効になる」と理解するのは正確ではありません。
この事件で何が認定されたのかと、現在の民法でどのような効果になるのかは、分けて考える必要があります。
土地を売る前に、利用目的を確認したほうがいいのはどんなとき?
ここからは、この裁判例を踏まえた実務上の考え方です。
すべての土地売買で、買主の将来の利用方法を細かく制限すべきという話ではありません。
一方で、たとえば次のようなケースでは、利用目的が売却判断に影響することがあります。
- 事業用途か居住用途かで売却判断が変わる
- 周辺環境への影響が大きい用途を避けたい
- 分筆した土地について利用方法を重視している
- 近隣や親族との関係から特定の用途を避けたい
- 「この用途で使うのであれば売らない」という明確な条件がある
このとき整理しておきたいのが、それは単なる「希望」なのか、それとも「売却するかどうかを左右する条件」なのかという点です。
「できれば住宅として使ってほしい」という希望と、「この用途に使うのであれば売却しない」という条件では、意味が違います。
後者であれば、売却活動を始める段階で媒介会社に伝え、購入申込みがあった際に利用目的を確認することが考えられます。
売主・仲介会社が契約前に確認しておきたい5項目
買主の購入目的・利用予定は何か
利用目的が売却判断に影響するなら、事前に確認します。利用目的によって売却するかどうかが変わるか
売主自身が「希望」と「売却条件」を区別します。「この用途なら売らない」という条件があるか
譲れない条件があるなら、売却活動を始める段階で整理します。その条件を媒介会社や買主と共有したか
売主の頭の中だけに置かず、重要な条件として共有します。重要な条件をどう記録・契約に反映するか検討したか
必要に応じて、契約前に専門家も交えて検討します。
今回の判決が、「買主の利用目的は必ず契約書に記載しなければならない」と判断したわけではありません。
ここは判例の内容と、実務上の予防策を分けて考える必要があります。
ただ、紛争になってから「そんな用途だとは聞いていない」「禁止されていない」と争うより、売却判断を左右するほど重要な条件なら、契約前に明確にしておくほうがトラブル予防につながります。
仲介会社としても、売主に用途について譲れない条件がある場合には、その条件が売却判断にどの程度影響するのかまで確認しておきたいところです。
売却後に重大な食い違いが判明したら、早めの対応を
今回の売主Xは、太陽光発電事業の計画を知ったあと、土地について処分禁止仮処分を申し立てました。
裁判所は2019年8月30日、処分禁止仮処分命令を発令しています。
また、図解3で整理したとおり、現行民法では錯誤による取消しと第三者との関係も問題になります。
元資料も、第三者へ土地が処分されないよう、本件のように速やかに処分禁止仮処分を申し立てるなどの対応が重要だと指摘しています。
実際に仮処分が必要か、錯誤による取消しを主張できるかは、個別の事情によって異なります。
売却後に購入目的や利用目的について重大な食い違いが判明した場合は、早い段階で弁護士などの専門家へ相談することが重要です。
まとめ|重要な利用条件は「売る前」に確認する
今回の裁判例では、契約書や重要事項説明書に太陽光発電を禁止する条項がなくても、契約に至る一連の経緯から売主の錯誤が認められました。
ただし、「想定していた用途と違った」というだけで、同じ結論になるわけではありません。
今回重要だったのは、売主が太陽光発電目的での購入申込みを以前に断っており、その意向を買主も認識していたと裁判所が判断したことです。
土地の利用目的が売主にとって売却判断を左右する重要な条件なのであれば、
売却前に媒介会社へ伝える。
買主の利用目的を確認する。
必要に応じて、重要な条件をどう扱うか検討する。
問題が起きてから「そんなつもりではなかった」と争うより、重要な条件ほど契約前に整理しておくことが大切です。
横浜市内で土地・戸建て・相続不動産などの売却を検討していて、売却条件や買主への確認事項に迷う場合は、物件ごとの事情を整理したうえで売却方法を検討していきましょう。
