この記事では、購入後すぐに管理費等が値上げされた裁判例をもとに、売主側が売却前に確認したい資料と伝え方を整理します。
ポイントは、知らなかった情報まで当然に責任を負うという話ではなく、知っている情報や手元資料を早めに共有しておくことです。
相続マンションは、管理組合の情報を見落としやすい
相続したマンションでは、物件の鍵や登記関係の書類は確認していても、管理組合からの通知までは整理できていないことがあります。
郵便物の転送が止まっている、親族が保管していた書類の所在が分からない、賃貸管理会社とマンション管理会社の資料が混ざっている。このような状態のまま売却準備に入ると、買主へ説明すべき情報を見落とす可能性があります。
相続した不動産の初動整理については、相続した実家で最初に確認する順番もあわせて確認しておくと、名義や管理責任の整理がしやすくなります。
売却後に管理費・修繕積立金が上がるとトラブルになりやすい
買主は、物件価格だけを見て購入を決めるわけではありません。
住宅ローンの返済額に加えて、毎月の管理費、修繕積立金、駐車場代なども含めて購入後の負担を考えています。
そのため、引渡し後すぐに管理費や修繕積立金が上がると、「そんな話は聞いていなかった」と感じやすくなります。
修繕積立金は、築年数が経過したマンションほど見直しが行われることがあります。大規模修繕の予定、工事費の上昇、積立金不足などが理由です。
横浜市内でも、駅近のマンションや価格帯の高いマンションだからといって、管理状況まで同じとは限りません。立地や価格だけでなく、管理費・修繕積立金・長期修繕計画を確認しておくことが大切です。
判例でも、購入後すぐの値上げが問題になった
管理費・修繕積立金の値上げ予定をめぐって、実際に裁判になった事例があります。
東京地方裁判所令和4年9月28日判決では、中古マンションを購入した買主が、引渡し後まもなく管理費等が値上げされたことを理由に、売主と媒介業者に説明義務違反を主張しました。
この事案では、売買契約は令和元年12月23日に締結されました。その前の令和元年10月には、管理組合で管理費等の値上げに関するアンケートが実施され、11月の理事会でその結果をもとに協議が行われていました。
一方で、媒介業者は令和元年12月に管理会社へ確認し、同月20日付の「管理に係る重要事項調査報告書」を取得していました。その報告書には、管理費・修繕積立金のいずれについても、変更予定は「予定無」と記載されていました。
その後、買主は令和2年2月に残代金を支払い、物件の引渡しを受けました。ところが、令和2年3月の臨時総会で管理費等の値上げ案が承認され、同年5月分から管理費は月額19,230円から28,490円へ、修繕積立金は月額7,520円から15,760円へ改定されました。
買主は、値上げが確実だったにもかかわらず説明されなかったとして、増額分10年分相当の210万円余りを請求しました。
売主が必ず責任を負うわけではない
この判例では、売主の説明義務違反は否定されました。
理由の一つは、売主が管理費等の値上げ予定を認識していなかったことです。売主はそのマンションに入居したことがなく、値上げアンケートが実施されていたことも認識していなかったと判断されています。
また、媒介業者は管理会社から重要事項調査報告書を取得しており、そこには管理費・修繕積立金の変更予定が「予定無」と記載されていました。売主も媒介業者から、変更予定はないと聞いていました。
裁判所は、このような事情のもとでは、売主が自ら改めて管理会社に問い合わせる義務があったとまではいえない、と判断しました。
つまり、売主が知らなかったことまで、当然にすべて責任が問題になるとは限りません。
ただし、これは「何も確認しなくてよい」という意味ではありません。
ただし、知っている情報を隠すのは危険
この判例を、「知らなかったと言えば大丈夫」と受け止めるのは危険です。
売主の手元に、修繕積立金の値上げに関するアンケート、総会資料、理事会資料、管理会社からの通知がある場合は注意が必要です。
正式決定前であっても、値上げが検討されている資料があれば、買主にとって重要な情報になる可能性があります。売却後に「説明されていなかった」と言われると、責任が問題になる可能性があります。
- 修繕積立金の改定案
- 管理費の見直しに関する通知
- 大規模修繕工事の予定資料
- 修繕積立金不足を説明する資料
- 一時金徴収の検討資料
- 総会や理事会の議事録
売主自身が内容を法律的に判断する必要はありません。大切なのは、手元にある資料を仲介会社に共有することです。
「責任なし」と「何もしなくてよい」は違います。知っていることや、手元にある資料は、説明しておいた方が安全です。売却前の説明不足トラブル全般については、不動産売却前に確認したい説明不足トラブルの予防ポイントも参考になります。
売却前に確認したい資料
相続したマンションを売却する前には、管理組合関係の資料をできる範囲で整理しておくと安心です。
まず確認したいのは、管理会社が発行する重要事項調査報告書です。ここには、管理費・修繕積立金の金額、滞納の有無、管理組合の財政状況、変更予定などが記載されます。
特に、「管理費・修繕積立金の変更予定」の欄は重要です。予定なしと記載されているのか、検討中なのか、すでに総会決議済みなのかによって、買主への説明内容が変わることがあります。
あわせて、総会議事録や理事会議事録も確認しておきたい資料です。正式決定前でも、修繕積立金の見直しや大規模修繕の話が出ていることがあります。
長期修繕計画も重要です。今後の工事予定、修繕積立金の不足見込み、値上げの必要性などが読み取れる場合があります。
また、管理組合からのアンケートや通知も見落としやすい資料です。相続物件の場合、実家の郵便物の中に残っていることがあります。
一時金徴収の予定、管理費等の滞納、管理組合の財政状況なども、売却時には確認しておいた方がよい情報です。
横浜の中古マンション売却で相談前に整理したいこと
横浜市内の中古マンションでも、管理状況は物件ごとに異なります。
駅に近いマンションでも、築年数が経過していれば大規模修繕や修繕積立金の見直しが課題になっていることがあります。反対に、築年数が古くても、長期修繕計画や積立状況がきちんと整理されているマンションもあります。
そのため、売却時には「横浜市内で需要がある立地か」「いくらで売れそうか」だけでなく、管理費・修繕積立金・長期修繕計画もあわせて確認しておくことが大切です。
相続したマンションの場合、所有者本人が管理組合の動きを把握していないこともあります。親族宛てに届いた郵便物、管理会社からの封筒、総会資料、長期修繕計画などが残っていないか確認してみてください。
資料がすべてそろっていなくても、相談は可能です。手元にある資料をもとに、足りない情報を整理し、必要に応じて管理会社への確認を進めることができます。賃貸に出していた区分マンションの場合は、相続・管理引継ぎガイドで管理会社や家賃口座の整理も確認できます。
まとめ:相続マンションは「売る前の資料整理」が大切
相続したマンションを売却するときは、室内の状態や売却価格だけでなく、管理費・修繕積立金の状況も確認しておくことが大切です。
購入後すぐに毎月負担が増えると、買主とのトラブルにつながる可能性があります。
判例では、売主が値上げ予定を知らず、管理会社の重要事項調査報告書にも変更予定なしと記載されていた事情から、売主の説明義務違反は否定されました。
一方で、売主の手元に値上げに関する資料がある場合は別です。知っている情報や手元資料は、仲介会社に共有し、説明しておいた方が安全です。
売主を守るのは、あいまいな口頭説明ではなく、資料と確認履歴です。
相続マンションの売却では、まず「売る前の資料整理」から始めることをおすすめします。資料が全部そろっていなくても、管理会社への確認を含めて、売却前に確認すべき点を整理できます。
