事故物件の告知義務は何年前まで?過去の事件を「何もない」と答えて1,735万円の賠償が認められた判例

「昔の事件だから、もう告知しなくてもいいのでは?」

事故物件の告知義務と過去の事件の説明責任を解説する記事サムネイル

横浜不動産総合窓口では、横浜市内の空き家について、売却・賃貸活用・管理・解体を検討するための一般的な整理情報を掲載しています。

不動産を売却するとき、過去に事件や事故があった物件では、こうした疑問が出てきます。

特に相続した不動産では、

「親から昔そんな話を聞いたことがある」
「近所の人から事件があったと聞いた」
「かなり昔のことなので、詳しいことは分からない」

というケースもあります。

では、何年前の事件まで買主に伝える必要があるのでしょうか。

今回紹介する判例では、不動産で約7〜8年前に発生した強盗殺人事件について、売主が買主へ告知しなかったことが問題となりました。

裁判所は売主の不法行為責任を認め、最終的に1,735万円の損害賠償を命じています。

ただし、この判例を、

「殺人事件なら8年前でも必ず告知しなければならない」

と理解するのは適切ではありません。

今回特に注目したいのは、売主が事件を知っていたうえ、買主から「事件・事故等はなかったか」と聞かれて「何もない」と答えていたことです。

事故物件の告知は、「何年前か」だけで判断できるものではないことが分かる事例です。


買主は2つの不動産を合計5,575万円で購入

買主Xは、不動産業者でした。

建物を取り壊して転売する目的で、2013年12月に一つ目の不動産を2,275万円、2014年7月に隣接する不動産を3,300万円で購入しました。

合計の売買代金は5,575万円です。

契約前、買主Xは売主Yに、

「この不動産で、事件や事故などはなかったか」

と質問しています。

これに対して、売主Yは、

「何もない」

と回答しました。

事件や事故の有無を確認する買主と「何もない」と答える売主の漫画

ところが、決済から2日後。

買主Xは近隣住民から、この不動産で過去に強盗殺人事件があったことを知らされます。

事件が発生したのは約8年前。

しかも、事件の被害者は売主Yの親族でした。

買主Xは新聞記事などを調べ、実際に事件があったことを確認します。


決済後に約8年前の強盗殺人事件が発覚

決済後に近隣住民から強盗殺人事件を知らされ確認する買主の漫画

買主Xは売主Yと面談し、事件を前提とした適正評価額と、実際に支払った5,575万円との差額は2,500万円あるとして、その返還を求めました。

その後、売主Yと連絡が取れなくなり、買主Xは裁判を起こします。

請求したのは、

合計3,300万円でした。

これに対し売主Yは、

「事件・事故について買主から尋ねられたことはない」

と主張。

さらに、

「事件や事故が起きた不動産の価格が安くなることは知らなかった」

とも主張しました。


裁判所はなぜ売主の責任を認めたのか

裁判所は、売主Yの主張を認めませんでした。

証拠などから、買主Xが契約前に事件や事故の有無について尋ね、売主Yが「何もない」と回答していたと認定しています。

では、なぜその回答が問題になったのでしょうか。

強盗殺人事件は売買価格に影響する情報

裁判所は、売買する不動産で強盗殺人事件が発生しているかどうかという情報について、

売買価格に相当の影響を与え、契約の成否や内容を左右する情報

だと判断しました。

不動産を購入する側から見れば、

「その事実を知っていても同じ金額で購入したか」

「そもそも購入したか」

という判断に関係する情報だからです。

売主は事件の存在を知っていた

今回、事件の被害者は売主Yの親族でした。

裁判所は、売主Yが事件の存在を知っていたと認定しています。

そのうえで、売主には買主へ事件を告知する義務があり、告知しなかったことは不法行為に該当すると判断しました。

「価格が下がるとは知らなかった」でも責任は免れなかった

不動産価格への影響を知らなかったと主張する売主と裁判所判断の漫画

売主Yは、

「事件や事故があった不動産の価格が安くなることは知らなかった」

とも主張しています。

しかし裁判所は、事件や事故が起きた場合、その事情によって不動産の売買価格に影響することは、一般の人でも容易に想定できると判断しました。

仮に売主自身が価格への影響を知らなかったとしても、責任を免れることはできないとしています。

今回の判例で実務上特に注意したいのはここです。

「重要な情報だとは思わなかった」ことと、「伝えなくてもよかった」ことは同じではありません。

まして、買主から具体的に質問されているのであれば、曖昧な記憶のまま「ありません」と断定することは避けるべきです。


3,300万円の請求に対して、認められた損害は1,735万円

買主Xが請求した3,300万円が、そのまま認められたわけではありません。

買主側が提出した不動産価格査定報告書では、事件を前提とした不動産価格を3,294万円と査定していました。

一方、裁判所は、この不動産を売却する場合には4,000万円で売却される可能性もあると認定しました。

そこで、

5,575万円 − 4,000万円 = 1,575万円

を市場価額との差額損害として認めています。

さらに弁護士費用として160万円を認め、

1,575万円 + 160万円 = 1,735万円

の支払いを売主に命じました。

損害賠償額1,735万円の判決結果を示す漫画

一方、買主が主張していた約2,500万円の転売益については、確実性に乏しいとして認められていません。

慰謝料についても、市場価額との差額損害が認められることで一定の慰謝がされるとして、認められませんでした。

判例を見るときは、

「いくら請求されたか」と「いくら損害として認められたか」を分けて見る必要があります。


「8年前の事件でも告知が必要」と単純化してはいけない

ここは今回の判例を読むうえで注意が必要です。

この判決だけを根拠に、

「殺人事件なら8年前でも必ず告知義務がある」

と一般化することはできません。

元の判例解説でも、この判決にはいくつか注意すべき事情があったことが指摘されています。

売主Yは弁護士を付けず、本人訴訟で対応していました。

そのため、十分な反論や反証が提出されたようには見受けられないとされています。

また、買主側が提出した価格査定報告書についても、一件の取引事例のみから導き出されたものであり、事故の影響による価格減少の具体的根拠にも疑問が残ると指摘されています。

そのため元資料では、この判決について、特段の事情があるなかで判断された事案として理解するのが適当ではないかと評価しています。

したがって、

「殺人事件は○年間」

「自殺なら○年間」

と、年数だけで機械的に判断するのは危険です。


事故物件を売却するときに確認したい5つのこと

では、過去に事件・事故があった不動産を売却するとき、何を確認すればよいのでしょうか。

今回の判例から考えると、少なくとも次の5点は整理しておきたいところです。

1.何が起きたのか

まず確認したいのは、事件・事故の具体的な内容です。

「昔、何かあったらしい」という状態のまま判断するのではなく、分かる範囲で事実関係を整理します。

2.いつ起きたのか

事件からどれだけ時間が経過しているかも判断材料になります。

ただし、今回の判例が示すように、経過年数だけで結論が決まるわけではありません。

3.事件が起きた建物は現在も存在するのか

事件が発生した建物がそのまま残っているのか。

すでに取り壊され、別の建物になっているのか。

現在の不動産と事件との関係も整理する必要があります。

元資料で紹介されている別の大阪高裁判例では、事件から約8年以上が経過し、事件のあった建物がすでに取り壊されていたことや、周辺住民に事件の記憶が残っていると推測されることなどが検討されています。

4.売主自身が何を知っているのか

「自分が事件当時の所有者ではなかったから関係ない」と決めつけるのは避けたほうがよいでしょう。

現在把握している事実と、分からない事実を分けて整理します。

5.買主から何を質問されているのか

今回の判例では、ここが特に重要です。

買主は事件・事故の有無について明確に質問していました。

それに対して、事件を知っていた売主が「何もない」と回答しています。

説明しなかったケースと、具体的に質問されて事実と異なる回答をしたケースは、同じようには考えられません。


相続した不動産で「昔、事件があった」と聞いたら?

相続した不動産では、売主自身が過去の事情を詳しく知らないことがあります。

例えば、

「親から昔聞いたことがある」

「近所の人から事件があったと言われた」

「何十年も前なので詳細が分からない」

「事件があった建物はすでに建て替えられている」

といったケースです。

こうした場合に避けたいのは、詳細が分からないことを理由に、

「何もありません」

と断定してしまうことです。

分からないのであれば、まず分かる範囲で事実関係を確認します。

過去の資料、管理記録、所有者や親族から聞いている内容などを整理し、必要に応じて仲介会社や専門家へ相談したうえで、買主への説明内容を検討することになります。


告知書・物件状況確認書を「ただの書類」にしない

今回の判例には、もう一つ気になる点があります。

裁判所は、買主が事件・事故の有無を質問し、売主が「何もない」と回答したため、物件状況確認書(告知書)の作成手続が採られなかったと認定しています。

不動産売買では、後になって、

「聞いた」

「聞いていない」

「伝えた」

「そんな説明は受けていない」

という争いになることがあります。

だからこそ、告知書などを使って、

何を確認し、売主がどう回答したのかを記録に残す

ことに意味があります。

書類を作ること自体が目的ではありません。

後から確認できる状態を作ることが重要です。


判断できないことを聞かれたら、その場で断定しない

売却時に買主や仲介会社から質問されても、その場では分からないことがあります。

そんなときは、

「確認してから回答します」

で構いません。

実務では、例えば次の順番で整理します。

  1. 何が起きたのか確認する
  2. 発生時期を確認する
  3. 現在の建物との関係を確認する
  4. 自分が把握している情報と不明な情報を分ける
  5. 過去の資料や管理記録を確認する
  6. 必要に応じて仲介会社・専門家へ相談する
  7. 買主への回答内容を記録に残す

「たぶん大丈夫だろう」で回答してしまうより、いったん確認する。

今回の判例から実務に落とし込むなら、この対応が重要です。


まとめ|事故物件の告知は「何年前か」だけでは判断しない

今回の判例では、約7〜8年前の強盗殺人事件を告知しなかった売主に、1,735万円の損害賠償責任が認められました。

ただし、この判決を、

「8年前の事件でも必ず告知しなければならない」

という年数ルールとして理解するべきではありません。

確認したいのは、

という点です。

特に今回の売主は、事件を知っていたにもかかわらず、買主から事件・事故について質問されて「何もない」と回答していました。

分からないことを、分かったつもりで否定しない。

確認したうえで正確に回答し、その内容を記録に残す。

事故物件や過去の事件・事故がある不動産を売却するときは、「何年前だから大丈夫」と決めつけず、個別の事情を整理したうえで判断することが大切です。


横浜で事故・事件歴のある不動産の売却にお悩みの方へ

相続した不動産について昔の事件を聞いているものの詳細が分からない。

買主へどこまで説明すればよいか判断に迷っている。

過去の事情がある不動産では、売却前の情報整理が重要です。

横浜不動産では、不動産の売却・相続・管理に関するご相談を受け付けています。

事情を整理したうえで、売却方法や今後の進め方を検討したい方は、ご相談ください。