長く入居している賃貸物件では、10年、20年前に締結した賃貸借契約が、そのまま更新を重ねていることがあります。
こうした古い契約を見直すとき、注意したいのが個人の連帯保証人です。
2020年4月1日に施行された改正民法では、個人根保証契約について「極度額」の定めが重要になりました。
では、民法改正前に締結した連帯保証契約について、その後、賃貸借契約だけが更新されている場合はどうなるのでしょうか。
「改正民法後に賃貸借契約が更新されているなら、極度額を定めていない昔の保証契約は無効になるのでは?」
この点が争われた裁判例があります。
東京地裁令和3年4月23日判決です。
この裁判例を理解するうえで重要なのは、単に「いつ賃貸借契約が更新されたか」だけではありません。
賃貸借契約と保証契約を分けて、それぞれの締結・更新の経緯を確認することです。
2020年の民法改正で「極度額」が重要になった
2020年4月1日の改正民法施行により、極度額の定めのない個人根保証契約は無効となりました。
極度額とは、簡単にいえば保証人が負担する責任の上限額です。
賃貸借契約では、借主が家賃を滞納した場合などに、個人の連帯保証人が債務を負担することがあります。
そのため、現在の個人根保証契約では、保証人が負担する上限額を明確にする極度額の定めが重要になります。
一方、実際の賃貸管理では、2020年4月より前に締結された契約も数多く残っています。
問題になるのは、こうした民法改正前から続いている保証契約をどう考えるかです。
今回の裁判例|改正前に締結した連帯保証契約
今回の事件では、2016年10月、貸主Xと借主Y1との間で住宅の賃貸借契約が締結されました。
同時に、借主Y1の父親Y2との間で、賃貸借契約に基づく一切の債務を保証する連帯保証契約も締結されています。
その後、2018年11月に賃貸借契約が更新されました。
契約書には、連帯保証債務について、
本契約が合意更新あるいは法定更新された場合も同様とする。
という条項が設けられていました。
その後、借主は家賃を滞納します。
2019年10月から12月分の賃料のうち25万円について連帯保証人が支払い、さらに2020年6月分までの賃料不払い34万円についても連帯保証人が支払いました。
しかし、その後も滞納が続き、2020年11月分までに36万円の滞納が発生。管理会社が連帯保証人に支払いを催告しましたが、支払いはありませんでした。
賃貸借契約は2020年11月に「法定更新」されていた
この事件でポイントとなったのが、賃貸借契約の更新時期です。
2020年11月13日、賃貸借契約は法定更新されました。
つまり、2020年4月1日の改正民法施行より後です。
そこで連帯保証人は、
改正民法後の法定更新において極度額が定められていないため、法定更新後の連帯保証契約は無効である
と主張しました。
一見すると、
「改正民法後に更新されているなら、新しいルールが適用されるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、裁判所はこの主張を認めませんでした。
裁判所が確認したのは「保証契約自体が更新されたか」
今回の判決で重要なのは、賃貸借契約の更新と保証契約の更新を分けて判断している点です。
連帯保証契約そのものは、改正民法が施行された2020年4月1日より前に締結されていました。
そして、その後の賃貸借契約の更新に合わせて、保証契約自体が更新されることはありませんでした。
裁判所はこの点から、本件の連帯保証契約には改正民法の適用がないと判断しています。
さらに、契約書にはもう一つ重要な条項がありました。
連帯保証債務について、
本契約が合意更新あるいは法定更新された場合も同様とする。
と定められていたことです。
裁判所はこの条項から、保証人Y2は2018年の合意更新後、さらに2020年11月の法定更新後に生じる借主Y1の債務についても、保証責任を負う趣旨で合意していたと判断しました。
つまり今回の事件では、
- 連帯保証契約が改正民法施行前に締結されていた
- 賃貸借契約の更新に合わせて保証契約自体は更新されていなかった
- 合意更新・法定更新後についても保証する旨の条項があった
という事情がありました。
「2020年以前の保証契約なら極度額がなくても大丈夫」ではない
ここは注意が必要です。
今回の判決から、
「2020年4月より前に締結した連帯保証契約なら、極度額がなくても問題ない」
と一般化するのは避けるべきです。
今回の事案で裁判所が判断したのは、あくまでこの契約内容と更新経緯を前提としたものです。
特に混同したくないのが、
「賃貸借契約が更新されたのか」
と、
「保証契約そのものが更新されたのか」
という違いです。
今回の裁判では、保証契約について「賃貸借契約の更新に合わせて更新されることもなかった」と認定されたことが、改正民法を適用しない判断につながっています。
したがって、古い契約書を確認するときに、
「契約日が2020年4月より前だから大丈夫」
とだけ判断するのは適切ではありません。
保証契約がいつ締結され、その後どのように扱われてきたのかまで確認する必要があります。
古い賃貸借契約で確認したい8つのポイント
長期入居者の保証関係を確認するときは、少なくとも次の点を整理しておくと、契約関係を把握しやすくなります。
- 賃貸借契約を最初に締結した日
- 連帯保証契約を締結した日
- 保証人が個人かどうか
- 賃貸借契約の更新履歴
- 合意更新か法定更新か
- 保証契約自体を更新していないか
- 極度額についてどのような定めがあるか
- 更新後の債務について保証する旨の条項があるか
今回の判例解説でも、賃貸借契約が合意更新・法定更新された場合の保証責任を契約書上明確にしておくことは、トラブル防止のために有効と考えられると指摘されています。
ただし、この8項目だけで個別の保証契約の有効・無効を機械的に判断できるわけではありません。
まずは、現在の契約関係と、そこに至るまでの履歴を正確に把握するための確認項目として考えるのがよいでしょう。
相続や管理会社変更で物件を引き継いだときは特に確認
古い保証契約の確認が必要になるのは、家賃滞納が発生したときだけではありません。
たとえば、
- 賃貸物件を相続した
- 管理会社を変更した
- 自主管理から管理会社へ委託した
- 過去の契約書を整理している
といった場面でも、古い契約関係を確認する必要があります。
このとき、
「契約書に連帯保証人の名前がある」
というだけでは、現在の保証関係まで把握できるとは限りません。
確認したいのは、
- いつ保証契約を締結したのか
- その後、保証契約を更新していないか
- 賃貸借契約はどのように更新されてきたのか
- 更新後の債務について契約書にどのような定めがあるか
といった契約の履歴です。
特に相続や管理会社変更では、現在の契約書だけを見るのではなく、必要に応じて過去の契約書や更新書類までさかのぼって確認することが重要です。
相続した物件を自主管理する場合の確認事項は、相続した賃貸物件の入居者本人確認も参考にしてください。
賃貸管理では「契約書」だけでなく「契約履歴」を管理する
長期入居者が多い賃貸物件では、契約書をPDFで保存しているだけでは、いざというときに確認に時間がかかることがあります。
たとえば管理上、
- 賃貸借契約の締結日
- 現在の契約期間
- 更新日・更新方法
- 連帯保証人
- 保証契約の締結日
- 極度額
- 保証契約の変更・更新履歴
などを整理しておけば、過去から現在までの契約関係を追いやすくなります。
今回の裁判例で実際に問題となったのも、賃貸借契約が更新された一方で、保証契約自体は更新されていなかったという契約履歴でした。
これは判決そのものとは別の実務上の話ですが、管理会社やオーナーにとっては重要なポイントです。
契約書が残っていることと、現在までの契約関係を説明できることは別です。
古い契約ほど、書類そのものだけでなく、その契約がどのような経緯をたどって現在に至っているのかまで確認できる状態にしておきたいところです。
まとめ|「いつの契約か」だけで判断しない
今回の東京地裁令和3年4月23日判決では、改正民法施行前に締結された連帯保証契約について、賃貸借契約の更新に合わせて保証契約自体が更新されていなかったことなどから、改正民法の適用はないと判断されました。
また、契約書には、賃貸借契約が合意更新・法定更新された場合についても連帯保証債務を継続する旨の条項がありました。
古い契約を確認するときは、
「いつ契約したか」だけではなく、「その後、何が更新されたのか」まで確認する。
これが重要です。
特に長期入居者のいる賃貸物件や、相続・管理会社変更などで過去の契約を引き継いだ物件では、賃貸借契約と保証契約を分けて、契約履歴を整理しておくとよいでしょう。
参考判例・出典
東京地方裁判所 令和3年4月23日判決(ウエストロー・ジャパン)。RETIO No.126(2022年夏)「最近の裁判例から ⑾-法定更新と連帯保証契約-」(室岡 彰)。
※個別の保証契約の判断は事実関係や契約内容によって異なります。法的判断が必要な場合は弁護士等の専門家へご相談ください。
