古い家やビルを解体し、更地にしてから土地を売却する。
このとき、確認するのは自分の建物や敷地だけとは限りません。
特に古い建物が密集している場所では、建物同士がほとんど隙間なく建っていたり、壁や屋根などの一部が接していたりすることがあります。
建物を解体すると、それまで隠れていた隣接建物の外壁や取り合い部分が初めて露出することもあります。
実際に、隣接する古いビルと密着していた建物を解体し、更地として売却した後、隣接ビルの外壁材が落下して土地の利用に支障が生じ、隣接ビルの所有者だけでなく、土地の売主にも損害賠償責任が認められた裁判例があります。
この記事では、この裁判例を参考に、古い建物を解体して土地を売却するとき、隣接建物との関係について何を確認しておきたいのかを整理します。
建物を解体すると、隣接建物の状態が変わることがある
建物同士が近接・密着している場合には、解体した後に周囲がどう変わるかも確認しておきたいところです。
たとえば、隣接建物の外壁が初めて外部に露出する、建物同士の取り合い部分が現れる、これまで確認できなかった防水・配管・設備・境界付近の施工状態が見えるようになる、といった変化が考えられます。
つまり、解体によって変わるのは自分の敷地だけではありません。
自分の建物がなくなることで、隣接建物が置かれている環境まで変わることがあります。
隣接建物の外壁落下で、土地の売主にも責任が認められた裁判例
東京地裁令和3年7月20日判決の事案です。
売主Y1の土地には昭和35年築のAビルがあり、その隣にはY2所有の昭和34年築Bビルがありました。両ビルは密着して建築され、電気・水道・ガスなどを共有するなど一体として利用されていました。
Y1はAビルを取り壊して更地にしたうえで土地を引き渡す条件で、買主Xと38億円の売買契約を締結しました。
Aビル解体後、それまで隠れていたBビル南側外壁が外部に露出します。その後、Xは土地をC社へ賃貸し、15区画の時間貸駐車場として利用していました。
ところがBビルの外壁材が剥離して土地へ落下。15区画のうち10区画が閉鎖され、XとC社は月額480万円だった賃料を160万円へ減額しました。
裁判所は、Bビル所有者だけでなく、Aビルを解体して土地を売却したY1にも責任を認めました。
ポイントは「解体工事で隣の壁を壊した」ことではない
この裁判例で重要なのは、Aビルの解体工事によってBビルの外壁を壊した、と認定されたわけではないことです。
裁判所は、解体工事によってBビル南側外壁に損傷が生じたと認める具体的な証拠はないとしました。むしろ、床の取り合い部分を手斫りで施工していたことなどから、解体工事は慎重に行われていたと推認しています。
一方、Bビル南側外壁は、Aビルの建築から事故発生までの約55年間、Aビルの存在によって補修されず、自然劣化が進んだ状態だったと認定されました。
Aビル解体後、それまで隠れていた外壁が外部へ露出し、風雨や紫外線にさらされたことで劣化が進行し、その結果として外壁材の剥離が発生したと判断されています。
つまり、この事案は、「解体工事で隣の建物を壊した」という話ではありません。
「建物を解体したことで周囲の環境が変わり、それまで表面化していなかった問題が現れた」というところに特徴があります。
なぜ土地の売主にも責任が認められたのか
裁判所は、Y1が、Bビル南側外壁が約55年間補修されていないことや、Aビル解体後にそのまま放置すれば、老朽化や長期間の未補修を要因として外壁剥離が起こり得ることを予見できたことなどを重視しました。
またY1は、売買契約上、Aビルを解体して土地を買主Xへ引き渡す義務を負っていました。
こうした事情から裁判所はY1について、Bビル南側外壁からの建材剥離によって土地利用が妨げられる可能性を買主へ説明し、対処を促すべき法律上の義務を負っていたと判断しました。
一方、Bビル所有者Y2については、Bビル南側外壁の設置保存の瑕疵が認められ、民法717条1項の工作物責任に基づく賠償責任が認められています。
なお、以下は裁判所がすべての解体・売却案件について一律に示した義務ではなく、この事例から考えられる実務上の確認事項です。
古い建物を解体する前後で確認したい5つのポイント
1.隣接建物との距離や接触状況
建物同士の密着、壁や屋根の接触、境界付近の特殊な施工、建物同士の取り合い部分などを確認します。築年数の古い建物では、現在の外観だけでは施工関係が分からない場合があります。
2.解体すると何が新しく露出するのか
見るべきなのは、「今、何が見えているか」だけではありません。
「この建物をなくしたら、何が新しく露出するのか」まで考えます。
隣接建物の外壁、防水部分、配管、設備、接合部分など、現在は自分の建物に隠れて確認できない箇所があるかもしれません。
3.新たに露出した部分に気になる状態がないか
ひび割れ、浮きや剥離、腐食、防水部分の劣化など、目視で気になる状態がないか確認します。
外壁などの安全性を一般の所有者が判断するのは難しい場合があります。気になる状態が確認された場合には、必要に応じて施工業者や建築の専門家などへ確認することを検討します。
4.隣地所有者との協議内容を記録する
隣接建物側に問題が見つかった場合には、隣地所有者と状況を共有し、問題箇所、確認者、補修の要否、売却前の対応範囲などを整理します。
いつ、誰と、何を確認したのかを残しておくことも検討したいところです。
5.買主の予定する土地利用に影響しないか
今回の裁判例では、外壁材の落下により15区画の駐車場のうち10区画が閉鎖されました。
問題になったのは外壁の状態そのものだけではなく、その状態によって、買主が土地を予定どおり利用できるかという点です。
買主の土地利用に影響する可能性のある事項を把握しているのであれば、売却時の説明事項として整理しておく必要があります。
解体前・解体中・解体後に残しておきたい記録
| タイミング | 確認・記録しておきたい内容 |
|---|---|
| 解体前 | 建物全景、隣接建物、境界付近、接触部分など |
| 解体中 | 建物同士の取り合い部分、解体で初めて確認できた箇所 |
| 解体後 | 新たに露出した外壁・設備・配管などの状態 |
| 協議時 | 隣地所有者や施工業者などとの確認・協議内容 |
| 売却時 | 買主へ説明した事項、交付した資料など |
写真や動画などを残しておけば、「解体前はどうだったのか」「解体によって何が変わったのか」「いつ問題を確認したのか」を後から確認しやすくなります。
ポイントは、どの時点で何を確認し、その後どう対応したのかを追える状態にしておくことです。
問題が見つかったら、売却前に整理する
解体して初めて、「隣の外壁に気になる箇所がある」「境界付近の施工がどうなっているのか分からない」「隣地所有者と協議した方がよさそうだ」と分かることもあります。
こうした問題を把握した場合には、そのまま売却手続きを進めるのではなく、何が分かっていて、何がまだ分からないのかを整理することが重要です。
内容によっては、解体業者、建築士など建築の専門家、土地家屋調査士、不動産会社、弁護士など、それぞれの専門家による確認が必要になることもあります。
すべてを売主自身で判断するのではなく、問題の内容に応じて適切な専門家へつなぐことも検討しましょう。
更地にすればリスクがなくなる、とは限らない
古い建物を解体して更地にすると、建物そのものに関する問題は減るように感じます。
一方で、建物をなくしたことで、それまで見えていなかった問題が初めて表面化することもあります。
今回の裁判例でも、問題になったBビル南側外壁は、Aビルの存在によって約55年間補修されず自然劣化が進んだ状態にあり、Aビル解体後に外部へ露出したことで劣化が進行したと認定されています。
解体を伴う土地売却では、
「何を壊すのか」だけではなく、
「壊した後に周囲がどう変わるのか」まで確認する。
今回の裁判例からは、そんな視点の重要性が読み取れます。
横浜市内で古家や古いビルの解体を伴う売却を検討している場合には、売却価格や解体方法だけでなく、隣接建物・境界・解体後に露出する部分まで含めて、売却前に状況を整理しておくことが大切です。
