築50年超・入居者は一人。老朽アパートの立退きで正当事由が認められた理由

築50年超・入居者一人の老朽アパートで、賃料・共益費6か月分の立退料により正当事由が補完された裁判例をもとに、修繕・売却・解体・建替えの出口を整理します。

築50年を超える老朽アパートについて、耐震性・一人入居・解体計画・立退料を確認する記事のサムネイル

横浜不動産総合窓口では、横浜市内の空き家について、売却・賃貸活用・管理・解体を検討するための一般的な整理情報を掲載しています。

築50年を超え、空室が増え、入居者が一人だけ残った木造アパート。修繕を続けるか、解体・建替え・売却を検討するか、判断に迷う家主は少なくありません。

普通借家契約では、建物が古いことや入居者が一人だけになったことだけで、当然に退去を求められるわけではありません。今回の東京地裁判決も、立退料の額だけでなく、耐震性、利用状況、解体後の計画と資力、借主の年齢・居住期間、契約経緯を総合して判断した事例です。

本件の立退料は賃料・共益費の6か月分(27万円)でしたが、一般的な相場ではありません。
立退料は正当事由を補完する一要素であり、金額だけで明渡しが可能になるものではありません。

この記事のポイント

  • 築50年超でも、築年数だけで立退きが認められるわけではない
  • 耐震診断、解体計画、資力など、家主側の必要性を裏付ける資料が重要になる
  • 長期居住・高齢・移転負担など、借主側の事情も慎重に比較される
  • 「更新は今回限り」という記載だけで普通借家契約が当然に終わるわけではない
  • 退去通知の前に、建物・契約・収支・土地利用をまとめて整理する

事案の概要|築50年超の木造アパートに一人だけ入居

対象は昭和43年7月築の木造2階建てアパートです。借主は平成12年8月から居住し、月額賃料4万3,000円、共益費2,000円で、2年ごとの契約を4回更新していました。平成20年7月の契約書には「契約更新は今回限り」との特約がありましたが、期間満了後も居住が続き、契約は期間の定めのないものとして存続しました。

平成31年3月に家主が相続で所有権を取得した後は、借主一人だけが入居する状態でした。賃料等の受領を拒否された借主は、供託を続けながら居住していました。

家主側の事情|耐震性、解体計画、資力はどう整理されたか

家主は、隣接建物とともに解体して8台分の駐車場にする設計図を依頼し、低層マンションの建築提案も受けていました。マンション計画は実現見通しが不透明と評価された一方、駐車場利用は建物の危険性・収益性の問題を解消する具体的で合理的な計画として考慮されました。

令和3年5月の耐震診断では、1階は倒壊する可能性が高く、2階も倒壊する可能性があるとされました。耐力要素の不足、耐力壁化や接合部補強、屋根軽量化の必要性が示され、2階共用廊下には支柱で支える応急措置もありました。家主には解体費を支払える流動資産もありました。

裁判所は、築年数や空室だけを抽象的に評価したのではなく、専門家の診断、入居者一人という利用状況、収益性、解体後の具体的利用、実行資力を総合し、家主の必要性を相当程度高いと判断しました。

借主側の事情|長期居住と高齢による移転負担

借主は30年以上居住し、裁判時には70歳を超えていました。裁判所は、長期居住と高齢から、借主が住み続ける必要性も高いと認定しました。転居先の確保、引越し、生活環境の変化は大きな負担になり得ます。

したがって、建物が危険・老朽化している事情だけで直ちに明渡しが認められたわけではありません。家主側と借主側の事情を比較することが、正当事由の判断の前提です。

「更新は今回限り」という合意はどう評価されたか

平成20年の契約書には更新を今回限りとする記載があり、借主は署名押印していました。しかし、満了後も居住が続いたため、その特約だけで普通借家契約が当然に終了したわけではありません。

もっとも裁判所は、契約終了に関する記載を理解したうえで、終期からさらに10年以上住み続けた経緯を、居住継続の必要性が相対的に低下する事情として評価しました。契約の種類や更新書面の時期は、定期借家の契約書が開始日より後になった裁判例も参考になります。

立退料による正当事由の補完|6か月分を相場と扱えない理由

裁判所は、家主側の事情だけでは正当事由として十分とはいえない一方、借主の移転不利益を立退料で一定程度補うことにより、正当事由が補完されると判断しました。認められた額は、賃料4万3,000円と共益費2,000円の合計4万5,000円の6か月分、27万円です。

借地借家法28条では、双方の使用必要性、従前の経過、利用状況、建物の現況、財産上の給付の申出などを考慮します。立退料はこのうちの一要素であり、「立ち退かせるための代金」ではありません。本件には耐震診断、応急措置、入居者一人、収益悪化、具体的な駐車場計画、資力、契約経緯がありました。別の物件で同じ金額を示しても、同じ結論になるとは限りません。

入居者が一人だけ残った築古アパートの4つの選択肢

1. 修繕して賃貸を継続する

耐震性、給排水、防水、電気設備、共用部を確認し、必要費用と再募集後の賃料収入を比較します。

2. 合意により退去してもらう

退去時期、引越費用、移転先、敷金精算、立退料を協議し、合意内容は適切な書面で明確にします。

3. 入居中のまま売却する

契約内容、入居状況、建物状態、再建築条件を整理し、買主の利用想定を踏まえて売却条件を検討します。

4. 退去後に解体・建替えする

先に解体はできません。合意退去または法的手続と、再建築可否・資金計画を分けて確認します。

相続した古い賃貸物件の建替えでは、契約関係と出口を先に整理することが重要です。相続した古い賃貸物件を建替えたい場合の解説もご覧ください。

退去交渉前に確認する事項

建物

建築年、構造、耐震性、雨漏り・漏水、外壁・屋根、共用廊下・階段、設備、修繕履歴、今後の修繕費を確認します。

契約

普通借家・定期借家、契約・更新履歴、特約、賃料、支払状況、通知・交渉記録、所有者と契約当事者の関係を整理します。

収支

賃料、空室数・期間、固定資産税、保険、管理・清掃・修繕費、大規模修繕費、継続時の収支見通しを数値で比較します。

土地利用

接道、再建築、用途地域、建ぺい率・容積率、敷地形状、私道、隣接地、解体・建築費、駐車場利用、売却査定を確認します。

特に相続物件では、契約書や過去の説明・修繕履歴が不明なことがあります。通知を出す前に資料を集め、修繕・売却・建替えの選択肢を比較します。

家主が避けるべき対応

  • 期間満了や「更新は今回限り」という記載だけで退去を迫ること
  • 賃料の受領を一方的に拒否して、借主が賃料不払いになると考えること
  • 鍵の交換、荷物の搬出、電気・水道の停止などの自力救済
  • 解体後の利用や資金の具体的な計画がないまま退去を求めること
  • 最初から立退料の金額だけを示して問題を解決しようとすること

借主が任意に明け渡さない場合は、家主が占有を勝手に排除できるわけではありません。具体的な対応は弁護士へ確認してください。

管理会社と弁護士の役割分担

管理会社や不動産会社は、契約書、入居状況、賃料、建物管理、修繕履歴、収支、再募集可能性、売却・土地活用の選択肢を整理する役割を担えます。一方で、正当事由の法的評価、解約申入れ、立退料、合意書、訴訟対応は、弁護士への相談が必要となる場合があります。

管理会社が法的判断や代理交渉を完結させるものではありません。物件資料と契約関係を整理したうえで、必要に応じて専門家と連携することが大切です。

まとめ|退去通知より先に、物件全体の出口を整理する

本件は、築50年超、耐震上の懸念、入居者一人、収益性の悪化、具体的な解体後利用、実行資力、契約経緯、借主の長期居住・高齢を総合し、27万円の立退料で正当事由が補完された事例です。

家賃何か月分を払えばよいかだけではなく、建物、契約、収支、土地利用、売却可能性を一体で確認し、物件に合った出口を選ぶことが重要です。

参考裁判例・出典

東京地判 令和3年12月14日。一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO No.129 最近の裁判例から⑿-正当事由と立退料-」、解説:吉川 文堂、判例データベース:ウエストロー・ジャパン。

本記事は公表された裁判例をもとにした一般的な情報提供であり、個別案件の法律判断を示すものではありません。正当事由や立退料は、建物、契約、家主・借主双方の事情、交渉経緯により異なります。具体的な案件は弁護士などの専門家へご相談ください。

横浜の築古アパートについて、修繕・売却・活用の選択肢を整理します

入居者が一人または少数だけ残っている、空室が続く、建物の老朽化や安全性が心配、相続後に契約書や修繕履歴が見つからないといった場合は、退去の話を始める前に、建物・契約・収支・売却・土地利用を整理することが大切です。横浜不動産総合窓口では、物件ごとの選択肢を比較するための状況整理をお手伝いします。法的な判断や交渉が必要な場合は、弁護士などの専門家への相談をご案内します。