貸店舗の無断工事で契約解除できる?コインランドリーの騒音・振動トラブル判例

無断工事、上階への振動・騒音、排気による被害、改善要求後の対応を総合し、信頼関係の破壊が認められた事例から、貸店舗管理の確認点を整理します。

無断工事と騒音で契約解除へ|コインランドリーの貸店舗契約解除判例

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店舗として貸している物件で、借主がオーナーに無断で外壁へ穴を開けた。さらに営業開始後には、上階の入居者から機械の振動や騒音、排気による熱気や埃について苦情が出た。このような場合、オーナーは賃貸借契約を解除し、物件の明渡しを求めることができるのでしょうか。

今回取り上げるのは、コインランドリー営業に伴う無断改装工事と、振動・騒音などへの不十分な対応について、貸主と借主の信頼関係が破壊されたとして契約解除が認められた裁判例です。

無断工事をしただけで直ちに契約解除できるわけではありません。本件では、契約で定められた手続きに反する無断工事に加え、振動・騒音・排気等の被害と、改善要求後も十分な改善に至らなかった経緯が重なり、信頼関係の破壊が認められました。

コインランドリーとして貸した建物で、何が起きたのか

貸主は、所有する軽量鉄骨2階建て建物の1階部分を、コインランドリー営業を目的とする借主に貸しました。契約期間は2年間、賃料は月額17万5,000円でした。

契約書には、借主が物件の現状を変更する場合、工事の内容や方法を記載した書面を事前に貸主へ提出し、貸主の書面による承諾を得なければならないと定められていました。

借主は、機器の設置や店舗運営を別の運営会社に委託していました。運営会社は、建物の東側外壁に新たな穴を開けて排気口を設置する必要があると考え、仲介会社へ照会しました。仲介会社は工事図面を提出してもらったうえで貸主に確認すると回答しましたが、具体的な図面は提出されませんでした。

貸主は、すでに建物に開いていた穴を吸排気口として利用することについては問題ないと回答しました。ところが実際には、東側外壁に新たな穴が開けられ、排気口が設置されました。貸主はこの工事について事前に具体的な説明を受けておらず、書面による承諾もしていませんでした。

コインランドリー営業開始後、2階住戸で何が起きたのか

営業が始まると、2階の入居者から、大型機器の作動による振動や騒音で日常生活に支障が出ているとの苦情が出ました。また、東側外壁の排気口から、熱気、綿ゴミ、埃、臭いなどが共用通路に排出されていました。2階入居者は、その通路を通らなければ建物の外へ出られず、排気の影響も受けていました。

貸主は借主側に、排気口を別の場所へ移すことや、振動・騒音を改善することを繰り返し求めました。借主側は、機器の回転数を下げる、24時間営業を18時間営業へ変更する、排気口付近を清掃するなどの対応を行いました。

しかし、振動や騒音、排気による被害は十分に改善せず、上階入居者からの苦情は続きました。

1階コインランドリーの振動・騒音・排気が2階住戸へ与えた影響の図解
図1:1階店舗の設備トラブルが、2階住戸の生活環境へ

なぜ契約解除が認められたのか|裁判所が重視したポイント

貸主は、借主による契約違反とその後の対応によって信頼関係が破壊されたとして契約を解除し、建物の明渡しや約定違約金などの支払いを求めました。

裁判所は、主に次の事情を問題としました。

  • 契約で必要とされた書面による事前承諾を得ずに工事を行った
  • 工事内容が分かる資料を提出しなかった
  • 東側外壁への排気口設置について、事前に承諾を得たと主張した
  • 貸主から排気口の移設を求められても応じなかった
  • 上階入居者から振動、騒音、熱気、埃、ゴミ、臭いについて苦情が続いた
  • 貸主からも繰り返し改善を求められていた
  • 一部の対策を行ったものの、被害を解消する効果がなかった
  • 効果的な改善を行わない状態が約7か月間続いた

これらの事情から、貸主と借主の信頼関係は破壊されていたとして、貸主による契約解除が有効と判断されました。

無断工事から被害発生、改善要求、信頼関係破壊、契約解除までの流れ
図2:無断工事だけではない。信頼関係破壊までの積み重ね

無断工事をしただけで契約解除できるわけではない

この裁判例を見て、「借主が無断工事をしたら、すぐに契約を解除できる」と考えるのは危険です。賃貸借契約では、契約違反があっても、その違反が貸主と借主の信頼関係を破壊するほど重大でない場合、解除が認められないことがあります。

今回も、外壁への無断工事だけを理由に機械的に解除が認められたわけではありません。借主側の説明、是正要求への対応、上階入居者への被害、苦情が続いた期間、改善策の内容と効果などが総合的に考慮されています。

契約解除を検討する場合は、契約違反の有無だけでなく、違反後の借主の対応、被害の程度、改善までの経過を整理する必要があります。

運営会社へ委託していても、借主の責任はなくならない

この物件の借主は、コインランドリーの機器設置や店舗運営を運営会社に委託していました。しかし、貸主と賃貸借契約を結んでいるのは借主です。運営会社や内装業者が工事を担当していても、借主が貸主に対する契約上の責任を免れるわけではありません。

事業用物件では、契約上の借主、店舗運営会社、フランチャイズ本部、内装工事会社、設備会社、設計会社、仲介会社など、複数の関係者が工事や営業に関与することがあります。関係者が増えるほど、誰が何を説明し、誰が承諾を得るのかが曖昧になりやすくなります。

オーナーから見れば、まず契約当事者である借主に工事内容の説明や契約違反の是正を求めることになります。「運営会社に任せていたので知らない」という説明だけで、借主の責任がなくなるわけではありません。

「コインランドリー可」だけでは不十分|貸店舗契約前の確認事項

コインランドリーに限らず、事業用物件では営業に伴って騒音、振動、臭い、排気、煙、熱、排水などが発生することがあります。そのため、オーナーは「何の店を出すか」だけでなく、「どの設備を使い、どのように営業するか」まで確認する必要があります。

契約前には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。

  • 設置設備:種類、台数、重量、消費電力、給排水量、騒音値、防振対策
  • 工事内容:外壁や床への穴開け、排気口、給排水管、電気容量、ガス管の工事
  • 営業時間:24時間営業や深夜営業、営業時間変更時の承諾
  • 来店・搬出入:人数、滞在時間、業務用車両、共用部分への影響
  • 排気や騒音の経路:住戸の窓、玄関、共用通路、隣地との位置関係

重量のある機械や高速回転する機械は、振動が床や壁を通じて建物全体に伝わる可能性があります。設備のカタログや仕様書を提出してもらい、図面だけで分かりにくい位置関係は現地でも確認します。

工事承諾を「内装工事一式」で済ませない

「店舗内装工事一式を承諾する」といった曖昧な承認では、後からどの工事まで認めたのか分からなくなる可能性があります。工事承諾書では、工事場所、具体的な内容、壁・床・天井・柱への加工、排気口や配管の位置、設備の名称と仕様、施工業者、工期、騒音・振動対策、苦情発生時の対応、原状回復方法などを特定します。

承諾する図面や仕様書を添付資料として特定し、図面に記載のない工事は承諾対象外であることも文書で残しておくとよいでしょう。

工事前だけでなく、工事中・完成後も現地を確認する

書面で工事を承諾しても、実際の施工内容が図面どおりとは限りません。施工上の都合を理由に設備や配管の位置が変更されることもあります。必要に応じて工事中や完成後に現地を確認し、次の点を記録します。

  • 外壁や床に予定外の穴が開けられていないか
  • 排気口や室外機の位置が図面どおりか
  • 給排水管から漏水がないか
  • 振動防止材が設置されているか
  • 共用部分を無断使用していないか
  • 避難経路や通路を塞いでいないか
  • 他の入居者に影響する設備がないか

確認した内容は写真や動画で残し、承諾図面と照合できる状態にしておくことがトラブル防止につながります。

苦情が発生したら、口頭注意だけで終わらせない

上階入居者や近隣から苦情が出た場合、電話で注意するだけでは対応経過が残りません。初期段階から、苦情を受けた日時、申出人、発生時間帯、頻度、継続時間、生活への影響を具体的に記録します。

可能であれば問題が発生する時間帯に、店舗内だけでなく上階住戸、共用通路、建物外、隣接地でも状況を確認します。必要に応じて専門業者による測定や、第三者による原因調査も検討します。

借主には、何をいつまでに行うのかを書面で示し、改善計画書、工事見積書、施工予定日、施工後の報告書などの提出を求めます。対策後は「対応したか」だけでなく、実際に被害が改善したかを確認します。

「建物の構造上仕方がない」で終わらせない

騒音や振動について、借主側から「設備の設置には問題がない」「建物の構造が原因だ」と説明されることがあります。しかし、建物の構造を理由に被害を放置してよいわけではありません。

完全な防音や防振が難しいのであれば、機器の設置位置、防振架台や防振ゴム、営業時間、使用機器、排気口や配管の位置、営業方法や用途自体を見直す必要があります。構造上の問題があるからこそ、その建物で営業を継続できるかを検討します。

上階入居者を守ることも、建物全体の資産管理

1階店舗の問題への対応を先延ばしにすると、被害を受ける上階入居者との関係も悪化します。問題が解消されないまま上階入居者が退去すれば、空室が発生し、同じ環境のままでは再募集後にも同様の苦情が出る可能性があります。

店舗部分の賃料だけを見て住居部分への影響を軽視せず、店舗と住居が混在する建物全体の利用環境を維持する視点が必要です。

契約解除を考える前のセルフチェック

借主が改善要求に応じず、契約解除を検討する場合は、それまでの経過を整理します。

  • 賃貸借契約書と工事承諾書を確認したか
  • 借主から提出された図面や仕様書がそろっているか
  • 工事前後の写真、メール、苦情受付記録を保存しているか
  • 現地確認記録や騒音・振動の測定結果があるか
  • 改善要求の内容と期限を書面で示したか
  • 借主の改善計画と実施後の効果を確認したか
  • 他の入居者や近隣からの申出を整理したか

契約解除の可否は、契約内容、違反の程度、借主の対応、被害の継続状況などによって異なります。感情的に解除を通知せず、資料を整理したうえで弁護士などの専門家へ相談することが重要です。

まとめ|承諾手続きと改善経過を記録し、総合的に判断する

この事例では、書面による事前承諾を得ない工事、工事資料を提出しない対応、排気口の移設拒否、上階入居者への被害、繰り返された改善要求、効果的な対応を行わない状態の継続などが重く見られました。

コインランドリー営業そのものが違法・不適切とされた事例ではなく、無断工事が一度あれば必ず解除できるという判断でもありません。契約違反と、その後の説明・改善対応、被害の継続などを総合して、信頼関係の破壊が認められた事例です。

貸店舗では、契約前に設備や工事、営業時間、排気、騒音、振動を確認し、承諾範囲を図面と書面で特定します。問題が起きた後は、原因調査、期限付きの改善要求、対策後の効果確認まで記録を残しながら進めることが、他の入居者と建物全体を守ることにつながります。

本記事は、東京地方裁判所令和4年3月31日判決を紹介したRETIO No.129掲載の判例解説をもとに整理したもので、原判決全文を直接検討した解説ではありません。個別の契約解除、明渡し請求、違約金請求の可否は、契約内容や具体的な経緯によって異なります。実際の対応については、弁護士などの専門家へご相談ください。

貸店舗の工事承諾と苦情対応を、記録から整理しませんか

賃貸借契約書、工事図面、承諾書、苦情記録、改善要求と対応結果を時系列で確認し、建物全体の管理課題を整理します。契約解除などの法的判断が必要な場合は、弁護士などの専門家への相談が必要です。